ゆるり鑑賞 Yururi Kansho

映画や海外ドラマ、たまに本の感想を基本ネタバレで

「レ・ミゼラブル」〜声を上げよう!〜

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公式サイト:http://lesmiserables-movie.com/

2019年製作/104分/フランス
原題:Les miserables

※ネタバレを含みます

【物 語】
パリ郊外に位置するモンフェルメイユ。
ヴィクトル・ユゴーの小説「レ・ミゼラブル」の舞台でもあるこの街は、いまや移民や低所得者が多く住む危険な犯罪地域と化していた。
犯罪防止班に新しく加わることになった警官のステファンは、仲間と共にパトロールをするうちに、複数のグループ同士が緊張関係にあることを察知する。

本作で描かれているすべてが実際に起きたことに基づいています。
(中略)
これが私の生活であり、ここで撮影することが大好きなんです。 ―― ラジ・リ

(以上、公式サイトより転記させていただきました)

 

監督のメッセージ通り、 2019年製作の「レ・ミゼラブル」は
フランス・モンフェルメイユのシビアな現実を描いている。

その映像は時にドキュメンタリーのようで、
時にはCSで見るフランス刑事モノのよう。

そのバランスが絶妙で、エンターテイメント作品としても成立していて
とても見やすい作品だと思う。

ただし、厳しい現実を直視する勇気は必要かも。
フランスのTVドラマを見て「現実はここまで厳しくないだろう」と
楽観的に想像していた私。
見通しが甘かったんだなと思い知らされる。


登場人物の一人一人が生きてる感じ。
ドラマとしてはここがとっても肝心なところだと思うので、
この映画は成功しているのだろうなぁ。

傲慢な白人警官にも大切な家族があり、
行きすぎた行動に出た黒人警官にも大きな後悔がある。

 

個人的には、子供達のおかれた劣悪な環境が一番の気がかり。

誰かが悪いとは言い切れない、
あえていえば社会や政治に問題があるのだろう。

そんな社会や政治に対する鬱屈した感情を溜めてはいけない、
今こそ声を上げよう! と改めて思う。


ラジ・リ監督は「モンフェルメイユの現状を三部作で描きたい」と
インタビューで語っている。

次回作にも期待したい、そう思わせてくれる映画だった。


シネ・リーブル梅田にて鑑賞

3月第3週・第4週から公開(大阪市内)の映画で気になるのは

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「ジョン・F・ドノヴァンの死と生」
母と子の愛憎、同性愛の葛藤と孤独などドラン監督らしいテーマで、二人の人生がパラレルに描かれる
前作「たかが世界の終わり」は置いてきぼりな感じでピンとこなかったけど、今作は普通に良かった
何よりジェイコブくんが、素晴らしい
素敵な大人に成長してほしいと、おばちゃんは願います


3月第3週・第4週から大阪市内で公開される映画、その中から気になる作品をピックアップします

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3月第1週・第2週から公開(大阪市内)の映画で気になるのは

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「ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ」

ビー・ガンの映画を見ると、一種独特の不思議な感覚に陥る。
現実と夢の境目が曖昧になり、旅に出たような気持ちにも。
個人的には前作「凱里ブルース」ほどの衝撃はなかったけど。
3D版を体験したらまた少し違った印象をもったかもしれない。
関西では2Dでの上映のみだったのが残念。


3月第1週・第2週から大阪市内で公開される映画、その中から気になる作品をピックアップします

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2月第3週・第4週から公開(大阪市内)の映画で気になるのは

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水耕栽培のムスカリとミニチューリップ、花が咲くまであと2〜3週間かかりそう
待ち遠しいです

大変遅くなりましたが
2月第3週・第4週から大阪市内で公開される映画、その中から気になる作品をピックアップします

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2月第1週・第2週から公開(大阪市内)の映画で気になるのは

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「アニエスによるヴァルダ」は、アニエスが残してくれた遺産のような映画

ひらめきと創造、そして何より「共有」というのが素敵。
映画はもちろん、映像やアートが好きな人なら、めちゃくちゃ興味深い内容だと思う。

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それにしても、本当にチャーミングな人だなぁ。

 

アニエス・ヴァルダをもっと知るための3本の映画
公式サイト:http://www.zaziefilms.com/agnesvarda/


2月第1週・第2週から大阪市内で公開される映画、その中から気になる作品をピックアップします。

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「ジョジョ・ラビット」〜心震える音楽の力〜

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公式サイト:http://www.foxmovies-jp.com/jojorabbit/

監督・極本:タイカ・ワイティティ
製作:カーシュー・ニール、タイカ・ワイティティ、チェルシー・ウィンスタンリー
製作総指揮:ケビン・バン・トンプソン
原作:クリスティン・ルーネンズ

2019年製作/109分/アメリカ

原題:Jojo Rabbit

※ネタバレを含みます

【物 語】
第二次世界大戦下のドイツ。
空想上の友人アドルフ・ヒトラーに励まされ、立派な兵士になるべく奮闘中の10歳の少年ジョジョ。
しかし、心優しいジョジョは、訓練でウサギを殺すことができず、教官から〈ジョジョ・ラビット〉という不名誉なあだ名をつけられる。


この映画に恋をした!


ブラックな内容だけど、とんがってるわけじゃない。
ドライなタッチでコミカルに描かれている作品、なのに、なのに。。。

ラスト、ボウイの曲が降ってきた瞬間からブワーッ!と何かが降りてきた。
感情の高まりとあふれ出る涙に、我ながら驚き。
こういう体験をしたら、映画を見る事がやめられなくなる。

そうだ、平和になったら踊りたかったんだよね。

浜田桂子さんの絵本「へいわってどんなこと?」で
へいわって「大好きな歌を大きな声で歌えること」みたいな事が描いてあったけど。
好きな芸術や音楽を楽しめることは、とても大切なんだと改めて思う。


ユダヤ系でもある監督が、自らヒトラーを演じている。
こんな映画、大日本帝国陸軍をネタに日本でも作って欲しい!

例えば「陸に上がった軍艦」(新藤兼人原作・脚本/山本保博監督 2007年)
これを見ると、戦争の愚かさやアホらしさがリアルに伝わってくる。
とても良い映画だけど、あくまでも真面目な記録的作品という感じなので。。。

私が期待するのは、もっと笑えて楽しめて感動できる「物語」のある映画。
ナチスやヒトラーをネタにしたコメディは結構つくられているのに、
日本でそれが出来ないというのは、過去の清算がきちっと出来てない証拠かも。

例え作られたとしても、今の日本では上映許可出ないかもしれないなぁ?
なんて思ってから、そう考えてしまう今の状況ってやっぱり危ないと改めて思う。


ジョジョとヨーキーのコンビが可愛くて、可愛くて♪
スカーレット・ヨハンソンとサム・ロックウェル、
この二人もとてもチャーミング

毒気あり、温かさもあり、愛を感じる素敵な映画。
音楽が、作品をより盛り上げる。

TOHOシネマズ梅田 にて上映

 


こちらの映画も必見。

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Netflixでは「生きのびるために」のタイトルで配信されている
「ブレッドウィナー」

平和活動家のデボラ・エリスがパキスタンのアフガニスタン難民キャンプを訪れ、女性や少女に取材を重ね聞き取った話をもとに書き上げた児童文学が原作。

タリバン政権下のアフガニスタン、過酷な現実を生き抜く少女パヴァーナが主人公

劇中でパヴァーナが語る物語のシークエンスは、切り絵アニメーションがとても素敵で、芸術性が高い。

「ブレンダンとケルズの秘密」なども生み出したアイルランドのアニメスタジオ「カートゥーン・サルーン」の作品と聞いて、うなずけた。

パヴァーナが語るこの劇中劇こそ、作品の希望とも言える。

 

素晴らしい映画、だけど立派で正しい映画だからって、深く入り込めるとは限らない。
私にとってジョジョ・ラビットとこの作品との違いは、理屈ではなく、そこにある。

 

テアトル梅田にて鑑賞

1月第4週・第5週から公開(大阪市内)の映画で気になるのは

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「イントゥ・ザ・スカイ」
実に頼もしい主人公の女性は、架空の人物らしい
(エディ演じる気象学者は実在)
なるほど、それもあってリアリティがないのかー
けど、フェリシティ・ジョーンズのアクション、役への創り込みは素晴らしいし、大きな空に包み込まれる感覚は好き
Amazonプライムでも見られるけど、映画館向きの作品ですね

1月第4週・第5週から大阪市内で公開される映画、その中から気になる作品をピックアップします。

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さよならテレビ 〜嘘つくドキュメンタリー〜

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安倍政権下の今、「権力の客観的な監視役」という役割を、ほとんどのマスコミは放棄している。

現政権をヨイショする新聞もだけど、テレビだけで情報を受け取っている人は、今の時代の怖ろしさに気が付いていないのかもしれない。
とうか、無意識に見たくないものを見ないようにしているのかも。

そんな中、少しだけ期待して見に言った本作


「作為的なノンフィクション」と自ら暴露するフィクションとでも言えばいいんでしょうか?!


見る側の期待に応え出てきましたよ! ジャーナリストとしてまともな志を持ってる記者が。

その澤村記者とは対照的に、報道の使命とか頭にあるのか?と疑いたくなるようなミーハーな派遣社員の渡邊記者。
実際仕事できない人だと思うけど、面白くする為に生贄にされた感がある。

もう一人の主役、福島アナに関してはさして興味がわかない(笑)

このように、スポットを当てられた人物のうち一人は露出の多いアナウンサーで他の二人が契約社員だったのは、いじっても大丈夫な人物を選んでる感じがした。

保身に走りがちな社員からは本音が出てこないから、面白くない事は想像できるけれど。


結局、一番印象に残っているのは澤村記者の「テレビの闇はもっと深いんじゃないですか?」という問い。

それに対し、監督(東海テレビのディレクター)とNHKエデュケーショナルのディレクターは「そんなものは無い」と、ネット上の記事で意気投合している。

本当にそう思ってるのだとしたら井の中の蛙だし、触れたくないのだとしたら、そういう生ぬるい立ち位置が見えて、やはり白けてしまう。

いろいろ考えさせらえるという点では面白いのかもしれないけど、ディレクターの見た目のチャラさも加味され(笑)、最後のネタバラシの方法も含めて、なんだかイジワルな感じがする作品だった。


ますますテレビの報道とは「さよなら」したい、そんな気持ちになることは間違いない。
テレビ、役にたつのは災害時くらいでしょ。

報道以外は、特にEテレとか結構好きな番組あるんだけどなー。


第七藝術劇場にて鑑賞

1月第2週・第3週から公開(大阪市内)の映画で気になるのは

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「長くつ下のピッピ」や「やかまし村の子どもたち」など世界中から愛される児童文学作家の若かりし頃は、自由奔放なだけに苦難に満ちている。
致命的な失敗をしてしまった彼女だけど、その溢れんばかりのエネルギーと才能、意志の強さには羨望心を抱きます。
邦題は「アストリッド」にするべきかと。


1月第2週・第3週から大阪市内で公開される映画、その中から気になる作品をピックアップします。

※1/10(金)〜「パラサイト 半地下の家族」
※1/11(土)〜 「東海テレビドキュメンタリーのお年玉」
上記2つを追記しました。

 

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「裁かるるジャンヌ」〜タイムリーな映画〜

裁かるるジャンヌ 2Kレストア版 カール・Th・ドライヤー DVD

「ゴーモン 珠玉のフランス映画史」公式サイト:http://gaumont-movie-2019.com/


監督:カール・テオドール・ドライエル
脚本:カール・テオドール・ドライエル、ジョゼフ・デルテーユ
撮影:ルドルフ・マテ
1928年製作/80分/フランス
原題:LA PASSION DE JEANNE D'ARC

※ネタバレを含みます


【物 語】
百年戦争においてオルレアンの地を解放に導いたジャンヌ・ダルク。
だが1431年、戦いで捕えられた彼女は、イングランドに引き渡され、異端審問を受けることになる。


年初から、強烈な出逢い
予想以上にすごい映画だった


1928年のカール・テオドア・ドライヤーの作品
サイレントかトーキーかとか、そんな事忘れるほどの迫力でした。
というよりも、サイレントだから、表情で語る映画だからこそ、このインパクトなのかも。

ほぼジャンヌの顔のクローズアップなのに、表情での表現が突出しているせいか、全く見飽きることがない。

サイレント映画終焉の時代に、こういう素晴らしく芸術性の高い作品が生まれた事、しかしそれが当時の観客に受け入れられまなかった(興行的に大失敗だったそう)事は、なんとも惜しまれる気がします。
しかしそれが復元され、大勢の人が観ることができるようになったのは素晴らしいことですね。

 

実際の裁判記録をもとに脚本が書かれたということですが、15世紀の書類ががちゃんと残ってるよう。
公文書をすぐに処分したとか平気で言っちゃう、どこかの国とは大違いですね。


物語はシンプルに見えて、 色々と考えさせられる問題を含んでいます。

 

私は中・高校と6年間キリスト教系の学校で、少し宗教を学びました。
その際「隣人への愛」といった道徳的な側面に理解・共感できる部分はありましたが、「福音」にはどうも馴染めなかったのです。
様々な「奇跡」が、どうしても信じられない。

なので、ドライヤーの「奇跡」を見た時、その結末の神々しさに感動しつつも、どう捉えていいか少々とまどいを感じました。
今作でも「聖ミカエルのお告げを聴いた」というジャンヌのストーリーに、正直乗れない部分はあります。

が、ここで描かれるジャンヌの信仰心、「神の啓示を受け」それに従う情熱や恍惚感、戸惑い、死への恐怖、達観など深層心理には、強く惹きつけられるのです。


また、看守達の下卑た笑い顔がおそろしい。恐怖でした。
高校の授業で、熱心なクリスチャンだった先生が、ジャンヌがドレス(スカート)を着用しなかった理由について話していたことを思い出します。

この、女性に対するセクシャルハラスメントと、時の権力者が司法を牛耳る構図、これは日本においても表面化してきてる問題で、私の中で妙にタイムリーでした。


それにしても、信仰に裏打ちされているとはいえ10代の少女が軍の指揮官として活躍したこと、後に復権裁判が行われ守護聖人の一人となっていることなど、そういう土壌があるフランスが羨ましい。
いやしかし、火刑はないよなー。それだけはイヤ!

 

この作品同様、裁判記録をもとに作られたロベール・ブレッソンの「ジャンヌ・ダルク裁判」も、いつか見て比べてみたい。


念願だった映画をやっと見ることができて、それが傑作だったんだから、今年は幸先いいわー。
感謝です、ハイ。


シネ・リーブル梅田 にて鑑賞