ゆるり鑑賞 Yururi Kansho

映画や海外ドラマ、たまに本の感想を基本ネタバレで

「グレース・オブ・ゴッド 告発の時」〜かぶりつきの137分〜

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公式サイト:https://graceofgod-movie.com/


監督・脚本:フランソワ・オゾン
製作:エリック・アルトメイヤー、ニコラス・アルトメイヤー
撮影:マニュエル・ダコッセ
音楽:エフゲニー・ガルペリン、サーシャ・ガルペリン
編集:ロール・ガルデット
美術:エマニュエル・デュプレ
衣装:パスカリーヌ・シャヴァンヌ
2019年製作/137分/フランス、ベルギー
原題:Grâce à Dieu


【物 語】
フランスで現在も裁判が進行中の「プレナ神父事件」。
一人の勇気ある告発者から端を発し、結果的に80人以上もの被害者が名乗りをあげ、プレナ神父が教区を変えながら長年にわたって信者家庭の少年たちに性的暴力を働いていたという驚くべき事実が白日の下にさらされた。
(公式サイトより転記させていただきました)

 

「過去のことだろう」

そう言い放つ教会関係者に怒りを覚えずにはいられなかった。
過去の出来事がトラウマになり、現在の被害者を蝕んでいることすら想像できないのは、思考停止に陥っているとしか思えない。

 

アルモドバルの「バッド・エデュケーション」、近いところでは「スポットライト」でも題材となっていたカソリック神父による児童の性的虐待。

他にも何かで見た気がするけど、被害者の立場からこれだけじっくりと問題を描いた作品は初めてだと思う。

ちなみにショッキングな映像などはなく、極めて真面目に問題提起している社会派の映画。
個人的にはこういうのが大好きなので、見応えがあり、感情を揺さぶられ、いろいろと考えさせられた。

最初から興味のない人には、重くしんどい137分かもしれないけど。

 

性被害を受けた人が、その事について冷静に考えることができるのには長い時間がかかるだろう。
ましてや子供の頃に受けた場合は、その事自体を理解することも難しいかもしれない。
ただショックを受け、自分の見に何が起こったのかよくわからないまま漠然とした罪悪感を感じ、思春期になって初めて事の重大さに気がつく場合もある。

ここで登場する被害者達はみな、20年〜30年という年月を経てから声をあげてる。
年月を経てもなお、その経験を思い出す際に苦悩を隠せず、見ているこちらの胸も締め付けられる。

 

かつて自分を性的虐待した神父が今も子供達に聖書を教えている知り、新たな悲劇をくい止めるために告発を決意するアレクサンドル。
しかし教会組織は長年、神父が小児性愛者だと認識した上で放置していたのだ。

アレクサンドルはカソリック信者であるがゆえに、教会を良くしたい、安全な場所にしたいという気持ちで告発したのに。。。
決して教会を敵視していなかったどころか、信頼していた(ちゃんと処理してくれると)彼を裏切ったのは、とんでもない失敗でしたね。
結果的には、そんな教会に業を煮やした彼が警察に届けたことが、この事件が明るみになるきっかけになったわけで。


前半は、メルヴィル・プポー演じるアレクサンドルの話
彼が訴えを起こしたから他の被害者達へと話がバトンタッチされていき、
一人一人の事情が静かな目線で描かれていく。


中でも、三人目の主役エマニュエルのトラウマはひどく、被害経験は彼の人生まで壊してしまっていた。

長年誰にも吐露できない気持ちを抱え孤独の中にいたと思われる彼が、被害者の会に参加することで少しずつ変わっていく様子が救いだった。


この被害者の会、たとえ意見が違っていても、とことん話し合い妥協点を見つけていこうとするのがフランス人らしく感じて羨ましい。

日本だと、ちょっと意見が違うだけで「仲が悪い」扱いされてしまうとか、一人だけ違う事いうと「変わった人扱い」される事もしばしばで、そういうの疲れるのよね、ホント(ちょっと愚痴って横道にそれました)


同じ被害者であっても、人それぞれ被害の度合いも違うし、受け止め方も違う。
それぞれの親との関係性もしかり、問題がなかった事にしようとする親や、全力で子供を守ろうと戦う親などがいて、考えさせられる。
被害者といえども皆事情が違うわけで、一人一人に寄り添って描いているところにも好感が持てる。

 


「パパ、まだ神を信じてる?」

この問いかけ、信仰を持っている人たちは重く感じるんだろうなぁ。

 


テアトル梅田 にて鑑賞