ゆるり鑑賞 Yururi Kansho

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「オロ」 〜チベットを思う日〜

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公式サイト:http://www.olo-tibet.com/

監督:岩佐寿弥
プロデューサー:代島治彦
音楽:大友良英
絵・題字:下田昌克
撮影:津村和比古
編集:代島治彦
整音:滝澤 修
通訳・コーディネーター:ツェワン・ギャルツェン
ボランチ:南 椌椌
(2012年 日本 108分)

※ネタバレ含みます。

【この映画について】
オロがヒマラヤを越え、チベットから亡命したのは6歳のとき。
今はインド北部の町ダラムサラで、チベット亡命政府が運営するチベット子ども村で学んでいる。
何故オロは家族を残して、亡命しなければならなかったのか。
そこから、中国に不当に支配されているチベットの受難が見えてくる。

「用意、スタート!」から始まる監督の声で、ダラムサラの街中を走るオロ。
うん?これはドキュメンタリーかと思ってたけど、違うのかな?と、一瞬意表を突かれます。

チベット問題に正面から切り込んだドキュメンタリーではなく、
少年オロや周りの人たちの生活を通して、見ている者が感じて、考えさせれる映画。。。。
とでも言ったらいいのでしょうか。

登場する人たちは皆、過去に辛い思いをしたり、また現在も辛い状況にあったりしても
明るく前向きに、祖国の独立を信じて暮らしています。

チベット子ども村でも一緒に勉強している、姉ダドゥンと妹ラモ・ドルマの姉妹は元気いっぱい。
特に姉のダドゥンは、お姉さんらしく年少の子供の面倒をみたり、お母さんを手伝ったり。

姉妹の母ラモ・ツォは真っ暗なうちからパンを焼き、それをかついで街頭に出て行くのですが、
彼女が通り過ぎる人に見せる笑顔は、とても素敵。
チベット仏教という信仰の力も大きいのかもしれませんが、確固たる信念を持っている人は
強いのかもしれないなぁと感じさせます。

そんな中、オロと一緒に学ぶ学校が休みになっても行く所のない少年の話からは、
人民警察のチベット人に対する理不尽な扱いが語られます。
過去を語る少年は、思い出すと辛いのか、涙が次々とあふれてくるのです。

チベット人の子供がちゃんとした教育を受けるためには、命を危険にさらしてまでも
亡命せざるを得ない現状がどう考えてもおかしいと、見ている者は感じます。
教育の現場において、チベット人がないがしろにされているという問題は、
中国政府のチベット人に対する弾圧の、おそらく氷山の一角なんでしょうね。

学校で子供たちが書いていたカリグラフィーはチベット文字なのでしょうか。美しい。
チベットの文字はインド系文字になるんですね。流れるような形が優美です。

冬休み、オロは岩佐監督と共に、監督が10年前につくった映画の主人公、
モゥモ・チェンガというおばあさんを訪ねてネパールに行きます。
(ネパールとインドは、国の行き来が簡単なようですね)
自分の手を温め、その手でおばあさんの手を包み温めてあげるオロ。
二人の手のアップは、人間が本来大切にすべきものは何なのかを物語っているよう。

ネパールで暮らす難民三世の姉妹たちは、自分たちが経験していない亡命時の話を
オロから聞き出そうとしますが、オロ自身は過去の辛い経験を思い出したくないのか、
積極的に語ろうとはしません。ここでは、それまで見せる事のなかったオロの暗い面差しから
亡命時の彼の苦労をうかがい知ることができます。

オロのような子供達はチベットの未来にとっての希望。彼らが本来の自分たちの国で、
自分たちの文化や信仰を守って家族一緒に暮らす、そんな当たり前な生活をおくれる日が
来る事を祈らずにはいられません。

岩佐監督の作品は初めて見るのですが、長く仕事をされてきた人らしく独自のスタイルを持ってはる
ような印象を受けました。いったん画面が暗転し次のシーンに移る方法が多用されています。

どこまでも雄大なヒマラヤの風景と、その中にいる少年や動物達の小さな命。圧倒されます。

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他にも印象的だったのは、枝にとまっているつがいの鳥や、大空を飛ぶ二羽の鷲、
狼のアニメーションなど、複数回出てくる映像です。なごむんですね、これが。
下田昌克さんの似顔絵が温かいタッチで、似顔絵の登場と共にそれぞれの人を思い出し噛みしめる
という楽しみも、最後にありました。

シネ・ヌーヴォでは「『オロ』公開記念チベット映画特集2012」が14日(土)から上映されます。
ドルマの姉妹の父ドンドゥップ・ワンチェンの映画(彼はこの映画を製作した為に逮捕された)や
モゥモ・チェンガおばあさんが主役の映画も上映されるようです。
http://www.cinenouveau.com/sakuhin/tibet/tibet.htm

シネ・ヌーヴォにて鑑賞。