ゆるり鑑賞 Yururi Kansho

映画や海外ドラマ、たまに本の感想を基本ネタバレで

「屋根裏部屋のマリアたち」 〜ゆで卵は3分半で〜

LES FEMMES

公式サイト:http://yaneura-maria.com/pc/

監督・脚本:フィリップ・ル・ゲ
共同脚本:ジェローム・トネール
(2010年 フランス 106分)
原題:Les Femmes du 6e étage

※ネタバレ含みます。

【ストーリー】
1962年、パリ。株式仲介人のジャン=ルイ・シュベール(ファブリス・ルキーニ)は、
妻シュザンヌが雇ったスペイン人メイドのマリア(ナタリア・ベルベケ)を迎え入れる。
彼女は、シュベール家と同じアパルトマンの屋根裏部屋で、同郷出身のメイドたちと暮らしていた。
軍事政権が支配する故郷を離れ、異国で懸命に働くスペイン人メイドたちに、
次第に共感と親しみを寄せるジャン=ルイは、やがて機知に富んだ美しいマリアに魅かれてゆくのだった。
(公式サイトより転記させていただきました)

軽めの映画が見たい気分で(たぶんカサヴェテスだけ見てたここ数週間の反動)、
ファブリス・ルキーニ主演のおフランス映画を選択。楽しめました。

監督は、幼い頃スペイン人メイドと暮らしたという思い出があるそうです。
なるほど、ド・ゴール政権下のフランスでは、フランコ独裁下のスペインを
逃れてきた多くの人達が働いていたんですね。

パリのプチブルジョワジーが、スペインの内情なんかには全く関心が無いのが
家族の会話の中に表現されていて、ちょっと意外でしたが。
日本も、朝鮮戦争時には「特需で儲かる」位にしか捉えてなかったのかなぁ。
今は、もうちょっとだけ皆が隣国の情勢に興味を持つ時代に変化したと思いたいけど。

話を映画に戻して、
ジャン=ルイの母の代からいる家政婦ジェルメーヌは、
彼の妻シュザンヌ(サンドリーヌ・キベルラン)の態度が気に入らず
悪態をつき辞めてしまいます。
ここでまず、使用人にもかかわらず家庭の事に口を出して
好きな事言いまくるジェルメーヌの自由さに驚きます。
日本では。。。。ちょっと考えられないのでは。

で彼女の後釜に、叔母を頼ってフランスにやってきたばかりの
マリアが雇われるのですが、若くて活気があって働きもので、
しかも、理想のゆで卵を提供してくれる彼女は、
ジャン=ルイの心をつかむのです。

で、マリアに好意を持ったジャン=ルイはふとした事から
メイドたちが暮らす6階(屋根裏部屋)の現状を知る事になるのです。
それまで、全く知らなかったというか知ろうともしなかったのね。
うん。。。。この無関心が逆になんだか怖い気がする。
つまり、ジャン=ルイは狭い社会にしか目を向けてこなかった、
そういう生き方をしてきた人なんですね。

自ら言っていたように両親に愛された実感がなかった(おそらく彼の子供達と同様、
メイドに育てられた後寄宿学校に入れられたのか)彼にとって、
陽気で感情をストレートに表すスペイン女性達は、まさに異文化そのものだったのでは。
温室育ちのジャン=ルイは、その生命力に惹かれたのかもしれないなぁと思います。

物質的な豊かさではなく、人間関係(ジャン=ルイは「家族が出来た」と言ってたけど)の
豊かさを初めて経験したかのような、そんな描き方でしたが、
それ以上に、あの狭い屋根裏部屋でくつろぐジャン=ルイの幸せそうなこと!
ファブリス・ルキーニの表情からは、一人で好きな事をして過ごす自由をかみしめてる〜
という彼の穏やかな幸せ感が伝わってきます。

見る側の想像にゆだねるような終わり方も、良いですね。
ふわりとした優しさを感じるような映画でした。
ただ、妻が人生に目覚めたその後の展開も見たかったけど。
彼女も何かに気づいたみたいだったから。

ところで、卵のゆで時間3分半てかなり短いですよね。
半熟でも沸騰してから5分位はかかると思うんだけど。そこんところ、ちょっと気になる。

テアトル梅田にて鑑賞。