ゆるり鑑賞 Yururi Kansho

映画や海外ドラマ、たまに本の感想を基本ネタバレで

ポルトガル映画祭2010(その2)

公式サイト:http://jc3.jp/portugal2010/

『神曲』A Divina Comedia
監督・脚本:マノエル・ド・オリヴェイラ
撮影:イワン・コゼルカ
(1988年/101分)

【解説】
「精神を病める人々」の表札が掲げられた邸宅で、
アダムとイブ、キリスト、ラスコリーニコフ、 ニーチェのアンチ・キリストら
歴史的文学作品の登場人物たちが、信仰と理性と愛についての議論を戦わせる。
西洋古典の深奥に分け入りながらも「まったく未知なものとして、絶対的な驚き」とともに
再び映像として蘇らせるオリヴェイラ芸術の真骨頂。
(公式HPより転記させていただきました)

adi

エヴァ(イヴ)から受け取った林檎をアダムが食べる所から始まり、イエスやパリサイ人といった
聖書の登場人物やニーチェ等になりきった人等などが出てきて、西洋精神史というか西洋哲学の
世界が繰り広げられます。

ドストエフスキー小説の登場人物等も登場しますが、最初「罪と罰」のラスコーリニコフ
それとは気が付かず、娼婦ソーニャとのやりとりあたりで意識失ってました。
ラスコーニコフが見る悪夢、老婆二人を殺害するあたりの映像美・カメラワークは素晴らしいんですが、
彼独特の犯罪理論が理屈っぽい割りにハチャメチャで、だんだん眠気が。。。。

また「カラマーゾフの兄弟」のイヴァンがバイクにまたがり、弟のアリョーシャに会いに来るのですが、
私のイメージしてたアリョーシャとかなりかけ離れてて予想外。
アリョーシャって、美青年でもっとピュアなイメージなんですが、
あれじゃヒゲと眼鏡しか印象に残りませんやん! 逆にイヴァン役の人がカッコよかったけど。
私自身、この小説の中でイヴァンが一番共感できる登場人物なので、なんか親近感感じました。
「大審問官」のくだりはあっさりと扱われていましたが、それでも唯一引き込まれたシーンです。

描かれているシーンのベースとなるものを自分が知ってるかどうかという事も
重要なんやなぁと改めて実感した次第。
で、西洋文化とその思想についての基本的な知識が無ければ、訳わからん映画かもしれません。
間口の狭い映画ではありますよね。


『黄色い家の記憶』Recordações da Casa Amarela
監督・脚本:ジョアン・セーザル・モンテイロ
撮影:ジョゼ・アントニオ・ルレイロ
(1989年/122分)

【解説】
強烈な存在感で見る者を魅了してやまない痩身の中年男デウス(神)を
モンテイロが愉快に自作自演した「ジョアン・ド・デウス」シリーズの第一作。
姦淫、盗みなどの悪行に身を任せる天衣無縫のデウスの足跡が、
そのままモラリスト的人間考察へと転じる。
サッシャ・ギトリバスター・キートンと比肩する偉大な個性を世界に印象づけた傑作。
(公式HPより転記させていただきました)

rec

ジョアン・セーザル・モンテイロ監督の作品を初めて見る事ができたんですが、ユニーク!
この作品では、滑稽さと物悲しさを併せ持った役を強烈な個性を持って演じていて、
これ一度見たら忘れられませんね〜。「なんて可愛い陰毛」というセリフからもわかりますが、
女性への偏愛と奇行が目につく主人公やけど、笑いも滲み出すんですよね。

娼婦ミミとカフェで過ごすシーンはミミが神々しく感じられ、その映像美にも惹かれるものがありました。


『ラスト・ダイビング】O Último Mergulho
監督・脚本:ジョアン・セーザル・モンテイロ
撮影:ドミニク・シャピュイ
(1992年/91分)

【解説】
死を想い波止場で淋しげにたたずむ青年に、老人が声をかける。実は自分も人生に飽きている。
最後に街に繰り出し存分に遊び、それから死ぬことにしようじゃないか……。
ネオン煌めく夜のリスボンで繰り広げられる歌と踊り、酒と官能の宴。
絶望と引き替えに許された、底抜けに大らかな人生賛歌。
(公式HPより転記させていただきました)

oul

エスペランサ役のファビエンヌ・バーブ!
『黄色い家の記憶』のモンテイロとは違った意味で、実に美しい存在感です。

劇中で「サロメ」が上演されますが、同じ場面が二回演じられます。
二度目は全く音のない状態なので、サムエルの夢想なんでしょうか。
ここのシーンで気持ちよくウトウトさせてもらいました、ハイッ。

エスペランサとサムエルが登場するヒマワリ畑のシーンは幻想的で美しい〜。
そして最後には「ヒュペーリオン」(フリードリヒ・ヘルダーリン書簡体小説)が描かれ、
正直どう繋がるのか???でしたが、この映画の魅力を損ねるものではありませんでした。

エスペランサがW.C.に入るショットでは、彼女に視線を投げかけるモンテイロがチラッと登場していますが、
それだけで妙に存在感があります。

映画とは直接関係ありませんが、石鹸の泡で一杯のブラシで顔をなでられるあの気持ちよさ!
子供の頃の床屋さんの記憶と感触が、同じようなシーンを見ると蘇るから不思議です。


今回上映されたモンテイロ作品で「ジョアン・ド・デウス」シリーズの最終作でもある
『神の結婚』は、残念ながら見る事ができませんでした。
また、アントニオ・レイスとマルガリーダ・コルデイロの『トラス・オス・モンテス』(1976年)が、
ものすごく気になっていたのに日程上見る事ができず、
今後見る機会を作っていただけるとありがたいなぁと思います。

神戸アートビレッジセンターにて鑑賞