ゆるり鑑賞 Yururi Kansho

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「市川崑 光と影の仕事」〜若尾文子さん出演作を中心に〜

3月11日まで上映中の「市川崑 光と影の仕事」
ちょこっと感想を(鑑賞順)

「日本橋」
1956年/カラー/111分/スタンダード/大映東京
原作:泉鏡花 脚本:和田夏十 撮影:渡辺公夫 美術:柴田篤二 音楽:宅孝二

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【淡島千景・山本富士子主演で、泉鏡花の戯曲を映画化
サイレントでも溝口健二監督によって映画化されているようです】

姉御肌で気っぷのいい雰囲気を醸し出す、お孝役の淡島千景さん
対照的に、清葉役の山本富士子さんは楚々とした美しさ
そして、若尾文子さんがとっても初々しくて可愛らしい!
この時代だからこその、女優さん達の存在感が素晴らしい

話の展開にはちょっとついていけない部分もあったけど
日本橋の芸者の世界、この雰囲気は良いですね〜
なんとも摩訶不思議な映画でした
一部、生理的に気持ち悪いシーンもあるので、ご注意ください

泉鏡花といえば、私「高野聖」で挫折してから全く読めてません。。。
映画化されてると、少しだけその世界を覗き見したような気になれます


「あなたと私の合言葉 さようなら、今日は」
1959年/カラー/87分/シネスコ/大映東京
原作・脚本:久里子亭 脚本:舟橋和郎 撮影:小林節雄 美術:下河原友雄 音楽:塚原晢夫

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【やもめの父(佐分利信)の事を思い、父が決めた婚約者との結婚を断るキャリアウーマンの和子(若尾文子)だったが。。。】

ムムッ、オープニングの曲はまるでフランク永井さんの「有楽町で逢いましょう」のようなムード歌謡で、ちょっと戸惑ってしまいました
「父を心配し嫁に行けない娘」という某監督の映画でも御馴染みのストーリーですが、最終的に主人公の選ぶ道が現代的で後味が良いです

スチュワーデスの妹・通子役に野添ひとみ、その妹からアプローチされる学生役が川口浩と御馴染みの顔ぶれで、このあたりのノリは軽いです〜
当時のJALに、あんな落ち着きのないスチュワーデスがいたとは思えないけど(笑)

京マチ子さんは、仕事も結婚も自分の欲しいものはガッチリ手に入れるしたたかな役で、若尾&野添コンビと共演した「婚期」のボーッとした義母役よりもずっとしっくりきてる気がします。
そういえば、「温泉女医」(1964年)の丸井太郎さんもちょこっと出演されてました

梅子の結婚式で義兄(船越英二)が半次郎(菅原謙二)と張り合うシーンなどコミカルで楽しく、結構好きなタイプの映画ですが、とにかく出てくる男達が皆、情けない〜
それに比べて女達の生命力溢れること!
メガネっ子の若尾さんも可愛らしくイキイキしてて、ファン必見です

あなたと私の合言葉 さようなら、今日は [DVD]

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「女経」
1960年/カラー/100分/シネスコ/大映東京
三者三様の悪女が主人公のオムニバス映画で、第二話だけが市川崑監督作品です

第一話「耳を噛みたがる女」監督:増村保造 原作:村松梢風 脚本:八住利雄 撮影:村井博 美術:山口煕 音楽:芥川也寸志
【隅田川に停泊するダルマ船で家族と暮らす紀美(若尾文子)は、銀座のホステス
キャバレーの客から巻き上げた金を株に投資するしたたかな女だが、会社社長の御曹司(川口浩)の事は本気だった】

今作の若尾さんは、男を手玉にとる蓮っ葉な女の役
いけしゃあしゃあと嘘をついても、なんか可愛いんですよね
しかし、最終的に好きな男性の事は大切に思って身を引く、というなんとも都合のよいわかりやすいストーリー
それでもセンチメンタルには流れない、ある種ドライな若尾さんの魅力が楽しめます

第二話「物を高く売りつける女」監督:市川崑 原作:村松梢風 脚本:八住利雄 撮影:小林節雄 美術:渡辺竹三郎 音楽:芥川也寸志

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【流行作家の三原(船越英二)は、海岸で見かけた爪子(山本富士子)に惹き付けられる】

山本富士子さん、最高!ですね
前半のとってつけたようなきどった話し方(笑)から、後半のサバサバした様子への変貌といい、笑わせてもらいました
「小説家の三原が失踪か?!」という最初のシーンは、画面がグルグル回ってちょっと気持ち悪かったのですが

爪子の部屋を訪ねてきた喫茶店勤めの女の子が、またまたポップな軽いノリの野添ひとみさん(笑)
「この商売はね、私くらいずば抜けて美人じゃないと成り立たないんだよ」という爪子のセリフに納得、ニンマリしてしまいます

頰被りをしてアイロンがけをしている爪子は、突然訪ねてきた三原を見て大あわて(可愛い!)
前半の不気味な雰囲気とコミカルな後半とのギャップも面白いし、今さらですが船越英二さん、息子さんとは格が違いますね〜

第三話「恋を忘れていた女」監督:吉村公三郎 原作:村松梢風 脚本:八住利雄 撮影:宮川一夫 美術:柴田篤二 音楽:芥川也寸志
【先斗町の芸者だったお三津(京マチ子)は、今は京都の宿屋の女将におさまっている
ある日、死んだ夫の妹(叶順子)が吉須(川崎敬三)と結婚するため金を借りにきた】

京マチ子さんは、女将とかマダムとか、やっぱりこういう「くろうと」の役がよう似合いはる〜
そして、中村鴈治郎さん演じるお三津の義父が、やっぱりか!という感じでイヤらしいスケベなおジイです(笑)
こういう役をやらせたら、右に出る者はいませんね〜

普段からお金に厳しいお三津ですが、元彼の根上淳の言葉には絆されそうになります
他の二話がカラッとしていたのと対照的に、しっとりとした京都の映像と共に情緒的な雰囲気に包まれています

女経 [DVD]

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「おとうと」(デジタル復元版)
1960年/カラー/98分/シネスコ/大映東京
原作:幸田文 脚本:水木洋子 撮影:宮川一夫
美術:下河原友雄 音楽:芥川也寸志

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【17歳のげん(岸恵子)は、何かと問題を起こす弟・碧郎(川口浩)の面倒を見ていた。
小説家の父(森雅之)の後妻となった継母(田中絹代)との関係が上手くいっていなかったからだ】

冷淡な義母と無責任に息子を甘やかす父親のせいなのか、グレてる割に甘えん坊の弟
そんな弟が若くして亡くなってしまう
ストーリーだけ追うと悲劇なんですが、水木洋子さんの脚本が良いのか、悲壮感がなくて面白い

主演の岸恵子さん、これまで上手いと思った事がないので少し心配でしたが、それなりに良い感じです
森雅之さんがまたも煮え切らない役で、見ていてイライラさせてくれます(笑)
田中絹代さん、思い込みの激しいイケズな役がすごく上手いですね
この方、けなげな役よりもこういう性格の悪い役の方が、私の中でしっくりきます
そして、少ししか登場しないのに、岸田今日子さんの存在感が(笑)
また、この頃の江波杏子さんは美しいです〜

という訳で、主役二人以外の俳優陣にばかり目がいってしまいました。

「炎上」(デジタル復元版)
1958年/モノクロ/99分/シネスコ/大映京都
原作:三島由紀夫 脚本:和田夏十、長谷部慶治
撮影:宮川一夫 美術:西岡善信 音楽:黛俊郎

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【三島由紀夫「金閣寺」の映画化
吃音症の青年僧が驟閣に放火するに至るまでを描く】

1950年、実際に起きた金閣寺放火事件をテーマに三島由紀夫が創作した小説「金閣寺」
その小説を元に和田夏十が書いたオリジナル脚本は、小説とはラストが異なっています

三島のこの小説、評価が高いのはわかるのですが、読んでて暗くなるし正直好きじゃない本です
そこをベースにしている訳ですから、ずっと底辺に暗い何かが淀んでいるような、不穏な空気がまとわりつくような映画となっています

市川雷蔵という人はカッコイイ役の時はスター性があって良いと思いますが、アイラインも入れずに(笑)こういう暗い役だとあまりにも地味すぎる
いや、上手いんですけどね。もうちょっとどこかに魅力のある主人公でないと、見ていて辛い

北林谷栄、中村鴈治郎、仲代達矢など周りの役者も有無を言わせぬ上手さで、宮川一夫のカメラワークも文句無し
しかし、好きな映画とは言えない。。。と同時に、見ておいて良かったとも思います
後味の悪い映画って、往々にしてこういう気持ちを抱かせるのです

あと1週間を残すのみとなった市川崑映画祭ですが、今週は金田一さんが活躍するあのシリーズなどが上映されているようです

 

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