ゆるり鑑賞 Yururi Kansho

映画や海外ドラマ、たまに本の感想を基本ネタバレで

「ブラック・スキャンダル」と「ブリッジ・オブ・スパイ」 対照的な2本のアメリカ映画

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公式サイト:https://warnerbros.co.jp/c/movies/blackmass/
※音声が出ますのでご注意ください

監督・製作:スコット・クーパー
脚本:マーク・マルーク、ジェズ・バターワース
製作:ジョン・レッシャー、ブライアン・オリヴァー、パトリック・マコーミック、タイラー・トンプソン
原作:ディック・レイア、ジェラード・オニール
撮影:マサノブ・タカヤナギ
美術:ステファニア・セッラ
編集:デヴィッド・ローゼンブルーム
衣装:カシア・ワリッカ=メイモン
音楽:トム・ホルケンボルフ
(2015年 アメリカ制作 123分)
原題:BLACK MASS

※ネタバレを含みます。結末に触れていますので、ご注意ください

【ストーリー】
 1975年、サウスボストンでアメリカの正義の根幹を揺るがす史上最悪の汚職事件が起きた。
マフィア浄化に取り組むFBI捜査官のコノリー(ジョエル・エドガートン)は、イタリア系マフィアと抗争を繰り広げるギャングのボス、バルジャー(ジョニー・デップ)に敵の情報を売るよう話を持ちかける。
(公式サイトより転記させていただきました)

実在したアイルランド系マフィアのボス、ジェームズ・“ホワイティ”・バルジャーの話を基に作られています。

見る前には、ジョニデが特殊メイクのハゲヅラだし、予告編が「ウルフ・オブ・ウォールストリート」(2013年)みたいなノリなので、コメディ系のクライム映画だと思ってしまいますよね〜。
実は全く違います。あくまでも淡々と犯罪が繰り広げられるのです。

そう、この映画どうも宣伝の方向性がおかしい!
「アウトレイジな奴らに酔いしれろ!」というキャッチコピーも予告編も、映画の雰囲気にそぐわない。
ポスターでは3人並んでるけど、ジェームズ(ジミー)の弟ビリーは核となる役所では全く無いし。
これは、ビリー役のベネディクト・カンバーバッチ人気にあやかろうとしてるのか、または大物政治家というキャラが興味をひくだろうという狙いなのか?

配給会社の姑息な宣伝方法はさておき、映画自体は悪くないと思います。
なんせもう、役者が揃ってますから。
特殊メイクのジョニー・デップが話題にされがちだけど、コノリーを演じていたジョエル・エドガートンが特に良かったし、実質主役だったんじゃないでしょうか。

「キンキーブーツ」(2005年)ではチュイテル・エジオフォーの強烈キャラに影が薄かったジョエル・エドガートン
野心家だけど詰めが甘い、というか踊らされてる感が強くて、一番ハラハラさせられる登場人物です。
そりゃ、奥さんにも見放されるわ!
目立つタイプではないけれど役になりきるというか、こういう俳優さんがすごく好きです。

ベネディクト・カンバーバッチも、兄と距離を置きながらも葛藤する感じを控えめな演技で表現しています。
贔屓目で見ているせいかもですが、荒くれ者達ばかりの中に常識的で上品な人が登場するとホッとするというのが正直なところ。
実際のビリー・バルジャーの写真を見ても、紳士然として写っている。写真を見る限り、インテリの如才ない大物政治家という感じです。

映画の中では、そんな権力の塊みたいな兄弟が母親の世話をかいがいしく焼いている様子が微笑ましかったですね〜。
イタリアマフィアの映画などでも見られますが、身内の結束が強いというか、強面の男達もママには結構ベタベタなのです(笑)

殺しの連続でなかなかグロテスクな映画ですが、コノリーの妻マリアン(ジュリアンヌ・ニコルソン)の部屋をビリーが訪れるシーンが、実は一番怖くてドキドキしました。
犯罪の連続で見ている側がちょっとウンザリした頃合いに、「アントマン」(2015年)では悪役だったコリー・ストールがさっそうと登場します。
上司のマグワイア(ケビン・ベーコン)も、いまいち煮え切らずイラッとしかけましたが、こういう頼もしい検事が出てきてこそ、アメリカ映画ですね。

さて、映画の中のコノリーですが、元々バルジャーに一憧れていたのか全く彼の言いなりという印象を受けました。
おそらく幼少期からの人間関係が大きく影響しているんでしょうが、そのあたりを思い起こすシーンなどは全くありません。

監督は、そういったモノをあえて排除しているようにも思えました。
兄・弟の関係性も、後半の電話のシーンでさらっと描かれているだけ。
俳優達の演技を楽しめる映画となっていますが、物語性や感動などを求める人には物足りなさを感じる作品かもしれません。
個人的には、センチメンタルな部分を感じさせないこういうドライな展開は結構好き。

シエナ・ミラーが逃亡中のジミーの恋人役だったそうですが、このエピソードはばっさりとカットされたようです。
うん、それは正解だったと思います。彼女には気の毒だけど

TOHOシネマズ梅田にて鑑賞


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公式サイト:http://www.foxmovies-jp.com/bridgeofspy/
※音声が出ますのでご注意ください

監督:スティーヴン・スピルバーグ
脚本:マット・シャルマン、イーサン・コーエン、ジョエル・コーエン
プロデューサー: マーク・プラット、クリスティー・マコスコ・クリーガー
撮影監督:ヤヌス・カミンスキー
衣装デザイナー:カシア・ワリッカ=メイモン
音楽:トーマス・ニューマン
(2015年 アメリカ制作 142分)
原題:BRIDGE OF SPIES

※ネタバレを含みます。結末に触れていますので、ご注意ください

【ストーリー】
アメリカとソ連が一触即発の冷戦状態にあった1950〜60年代。
ジェームズ・ドノヴァン(トム・ハンクス)は、保険の分野で実直にキャリアを積み重ねてきた弁護士だった。
ソ連のスパイの弁護を引き受けたことをきっかけに、世界の平和を左右する重大な任務を委ねられる。
それは、自分が弁護したソ連のスパイと、ソ連に捕らえられたアメリカ人スパイの交換を成し遂げることだった。
(公式サイトより転記させていただきました)

米ソ冷戦時代、米軍パイロットを釈放するためにKGBとの交渉にあたったアメリカ人弁護士ジェームズ・ドノバンの話を基に作られました。
同じように事実がベースとなっていても、こちらはコーエン兄弟が脚本に参加し、スピルバーグが監督という娯楽性もある作品

ジェシー・プレモンス(悪い顔!)のアップと彼の自白から始まる「ブラック・スキャンダル」とは、対照的なオープニングです。
今作は、自画像を描く男が電話を受けるというちょっと謎めいた演出で、これから何が始まるのか?と期待を持たせます。

ジェシー・プレモンスといえば、この映画にも出演してて売れっ子ですね。

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失礼ながら、マット・デイモンがボクシングの試合で殴られた後みたいな顔で、迫力があって見間違えようがありません。

最終的には上手くいくとわかっていても見ていてドキドキするのが、こういう事実を基にしたフィクション映画のお約束

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イランにおけるアメリカ人大使館員救出作戦を描いた「アルゴ(2012年)」などはかなりハラハラするように脚色されてました。
しかし、今作はちょっとそういう感じとも違うような。

サスペンス性よりも人間ドラマやアメリカ社会への皮肉を重視したという印象です。
トム・ハンクスだからなんとなく安心してしまう(笑)のかもしれませんが
不屈の男を描き最終的にカタルシスを得られる、正当派アメリカ映画で、スピルバーグ監督だな〜という安定感です。
そういう意味で「ブラック・スキャンダル」と対照的

それにしても、CIAがソ連に送り込む飛行士に自決用の道具を渡すのにはちょっと驚きました。
国の為という大義の為に個人の命をないがしろにするあたり、寒気を感じます。
そんな中、アメリカへの帰路でドノヴァンがパワーズにかけた言葉が印象深かったですね。

自決しなかったパワーズをせめるような目や、敵国のスパイを弁護するドノヴァンに対する攻撃など、極端な論調に陥りがちな社会とも言えるのですが、片や少数派でも信念に基づき行動する人が登場するのが、アメリカ社会の優れた点かもしれません。

ドノヴァンと信頼関係を築く、ソ連のスパイ・アベル役はマーク・ライランスです。

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最近では、「ウルフ・ホール」(AXNミステリーで放送中)でトマス・クロムウェルを演じていますが、まだ55歳なんですね。
一瞬、リチャード・ジェンキンスと見間違えましたよ。

f:id:YURURI:20160209162715j:plain(こちらはリチャード・ジェンキンス)

 

目と眉毛の間を広げる困り顔演技(?)に特徴がありますが、この映画では「それが役にたつのか?」というセリフと共に、些細な事で動じないスパイのオーラを感じさせてくれました。
ドンパチしない、人間ドラマ的なスパイ映画はやっぱりいいな。

大阪ステーションシティシネマにて鑑賞

 

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