ゆるり鑑賞 Yururi Kansho

映画や海外ドラマ、たまに本の感想を基本ネタバレで

「ハンナ・アーレント」〜悪の陳腐さ〜

ハンナ・アーレント [DVD]

公式サイト:http://www.cetera.co.jp/h_arendt/
※音声が出ますのでご注意ください

監督・脚本:マルガレーテ・フォン・トロッタ
脚本:パム・カッツ
製作:ベッティナ・ブロケンバー / ヨハネス・レキシン
(2012 ドイツ制作 114分)
原題:HANNAH ARENDT

※ネタバレを含みます。結末に触れていますので、ご注意ください

【ストーリー】
1960年代初頭、何百万ものユダヤ人を収容所へ移送したナチス戦犯アドルフ・アイヒマンが、逃亡先で逮捕された。
ハンナ・アーレント(バルバラ・スコヴァ)は、イスラエルで行われた歴史的裁判に立ち会い、ザ・ニューヨーカー誌にレポートを発表、その衝撃的な内容に世論は揺れる…。
 (公式サイトより転記させていただきました)

見逃して気になってた映画の中でも、特に見たかった作品
世間の圧力に屈せず自分の信念を貫く、そういう人を映し出した映画には惹かれます。
しかしハンナの生き方そのものよりも、ラストシーンの講義内容に共感する所が大きく、カタルシスを得られます。

自分も抑留キャンプに収容された経験を持つハンナは、ニューヨーカー誌との契約によりアイヒマンの戦後裁判を傍聴します。
しかしアイヒマンは、彼女が想像する「悪魔」のような存在ではなく、だたの「小役人」でした。
彼は「上からの命令に従ったまで」「自発的に行ったことは何もない」と弁明を繰り返すだけ。

この裁判のシーンではアイヒマンの登場部分に記録フィルムが挿入されていて、とてもリアリティがあります。
まるで自分にはかかわりのない事だとでも言うようなアイヒマンの表情、食い入るように見いってしまいました。

現代に生きる私たちは、こういう人間の行動を、結構目にしてきていますよね。
普段はごく普通の人であっても、集団の中においては正しくない方法に突き進んでしまうという事を。
かつての日本軍もそうでしょうし、今も会社や大きな組織ではあり得るでしょう。
小さな規模で言えば、例えば運動部の中でのスパルタな練習がエスカレートするだとか、それが体罰に繫がっていくとか。。。。
しかしこの時代にはまだ、そういう現象ついてあまり議論されていなかったのかもしれません。

ハンナはアイヒマンについて、彼が悪魔的な存在でユダヤ人への憎悪に燃えていたわけではなく、「凡庸」な人間だったと報告します。
また、裁判ではナチスに協力していたユダヤ人の証言などもあり、ユダヤ人指導者が協力しなければ、犠牲者は600万人も出なかっただろうと記事にします。

イェルサレムのアイヒマン――悪の陳腐さについての報告

イェルサレムのアイヒマン――悪の陳腐さについての報告

 

この裁判のレポートが掲載されると、彼女はユダヤ人社会から激しい非難と攻撃を受けることになります。
それまでの友人からも絶好され、大学からも辞職をせまられます。
こうやってユダヤ人社会が一丸となって彼女を弾圧するという、一方の方向に向いちゃう事自体が全体主義っぽいよなぁなんて思いますが。

映画のハイライトはやはり、大学における最後の講義でのハンナのスピーチです。
実際に映画を見てその内容を感じてもらうのが良いと思うので、ここではあえて触れず、一点だけ紹介しておきます。

それは、人間は思考する能力を持ち、それを放棄してはいけないという事です。
思考ができなくなると、平凡な人間が残虐行為に走ります。

物事の上っ面だけを見るのではなく、それについて自分自身の頭で考え、判断し、時には疑ってみる事が大切なのでしょうね。
情報過多な今の時代、思考する事がもしかして少なくなっているかもしれません。

ハンナはユダヤ人である前に人間であるという立場にたって発言をしていて、そこが肝心だと思いました。
ドイツ人=悪、ユダヤ人=善では決してなくて、どんな社会でもこの「悪の凡庸さ」が存在する可能性はあるわけですから。

私自身の今の思考も、過去の開拓者達が声をあげた事によって世の中に浸透していった事に大きく影響されているのだなぁと、この映画を見て改めて感じさせられました。
過去から未来へと、目には見えなくても人間の残してモノ(思考)は、こうやって引き継がれていくのかもしれないと思います。

監督について「ニュー・ジャーマン・シネマの旗手として現れ〜」と紹介がありますが、私は存じ上げませんでした。
この映画と同じくバーバラ・スコヴァが主役の「ローザ・ルクセンブルク」は、女性革命家の伝記映画なのですね。
こちらも機会があれば!と思いましたが、販売もレンタルもしてないよう。
同名の日本のバンドが存在していたようで、そっちばかりヒットします(笑)

WOWOWにて鑑賞

ハンナ・アーレント [DVD]

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