ゆるり鑑賞 Yururi Kansho

映画や海外ドラマ、たまに本の感想を基本ネタバレで

「あなたを抱きしめる日まで」 〜心の旅〜

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公式サイト:http://www.mother-son.jp/
※音声が出ますのでご注意ください

監督:スティーヴン・フリアーズ
原作:マーティン・シックススミス 
(2013年 イギリス製作 98分)
原題:PHILOMENA

※ネタバレ含みます。結末にふれていますので、ご注意ください

【ストーリー】
その日、フィロミナ(ジュディ・デンチ)は、50年間かくし続けてきた
秘密を娘のジェーン(アンナ・マックスウェル・マーティン)に打ち明けた。
1952年、アイルランド。未婚のまま妊娠した10代の
フィロミナは(ソフィ・ケネディ・クラーク)修道院に入れられた上、
息子を養子に出されてしまった。
それから50年、ひそかに息子の消息を捜していたフィロミナは、
娘の知り合いのジャーナリスト、マーティン(スティーヴ・クーガン)と
共にアメリカに旅出つ。

シリアスな題材ながら、ユーモアと可愛らしさに溢れた良作! オススメです
このセンスの無い邦題から受ける、おセンチな感じとはちょっと違います。

実在するアイルランド人の主婦・フィロミナの物語がベースとなっている。

The Lost Child of Philomena Lee: A Mother, Her Son, and a Fifty-Year Search

The Lost Child of Philomena Lee: A Mother, Her Son, and a Fifty-Year Search

 

著者は映画にも登場するマーティン・シックススミス。日本語訳もあるのですね。

あなたを抱きしめる日まで (集英社文庫)

あなたを抱きしめる日まで (集英社文庫)

 

BBCの報道記者マーティンは、プライドが高く感じの悪いヤツです。
ロンドンのナイツブリッジに住んでると言ってましたっけ?
T・S・エリオットを読み(この作家名は有名だけど、いつも大好きな
Dr.ヘリオットシリーズのジェイムズ・ヘリオットと間違えてしまう私)
いわゆるposhというかスノッブな感じで、
自分がくだらないと思うものには、手厳しい感じなのです。

“オックスブリッジ”という併称を一つの大学名だと思い込んでいる
そんなフィロミナに対し「ロマンチックな小説やダイエットの
記事ばかり読むと脳にどう影響するかわかった」などと言い、
見下している感じが、ありありと表面に出ています。

ジェーンからフィロミナの事を相談された時も、最初は
「心が弱く無知な人が読むものが三面記事」と相手にしませんでした。
そんなマーティンが、修道院のシスター達を悪役として描けそうだと
ジェーンと意気投合するシーンは、シニカルですね。

そんなマーティンはおかまいなしに、マイペースなフィロミナが
すごく可愛いのです。飛行機の飲み物やホテルの部屋にはしゃぎ、
従業員のサービスには「100人に1人の親切な人!」と感激し、
初めて体験すること全てに感謝しているようでした。

マーティンとフィロミナ、この対照的な二人の会話、掛け合いが
ちぐはぐで、面白いのですよ。
おそらくハーレクインのような女性向け大衆恋愛小説なのでしょうか、
その本のあらすじを延々と聞かされる、困り顔のマーティン(笑)

そんな風に、最初はフィロミナをバカにしていたマーティンですが、
彼の心は次第に変化していきます。フィロミナの息子が誰だったか、
それが判明した後からの展開は、ピリッとした空気に包まれます。

アイルランドの修道院で、子供を親に無断でアメリカに売っていた
という組織的な犯罪と、それを隠蔽しようとする体質が怖いです。
「オレンジと太陽」(2010年)では、イギリスからオーストラリアへ
強制的に送り込まれた子供達が描かれてましたが、いつの時代も
弱い者が被害者となるのですよね。

息子の消息を知った後、再び訪れた修道院は、雪景色でなんとも
幻想的で美しい。けど、その中身ははっきり言って「腐ってます」。
「私を裁くのはあなたではなく、神だけです」と言うシスターが
フィロミナにはずっと罪のつぐないを強いてきたのですから、
またもキリスト教の矛盾というか弱点について、考えさせられます。

最終的にはマーティンがフィロミナから学んだ事が
大きかったんじゃないでしょうか。
おそらくフィロミナの信仰心から生じるものかもしれないのですが、
彼女の心の器の大きさみたいなものに、見る者は圧倒されます。

「赦す」という事と、真実を明らかにするという事はもちろん両立する訳で、
彼女は映画公開を機に、捜索の依頼があった養子縁組の情報公開を
推し進める“フィロミナ・プロジェクト”を設立したそうです。
また、ヴァチカン市国で(異例らしいですが)この作品の上映会が
催されたとのこと。カソリックもこうした事実を無視する事はできない。。。
という事なのでしょうね。

一つ疑問に思ったのは、フィロミナの息子が下した最終的な判断です。
彼が自分の過去にちゃんと向き合っていたのは、フィロミナにとって
嬉しい事だと思うのですが、何故彼は自分のルーツにそこまで
こだわったんでしょうね。原作には、そのあたりの事書いてあるかな?

映画を見ている間には、すっかりフィロミナその人だと思ってしまった
ジュディ・デンチのさりげない演技には、見た後であらためて
上手いな〜と思わずにいられませんでした。

そして、この映画では無くてはならない存在だったマーティン。
スティーヴ・クーガンの演技には、個性というか味があるのだけど、
ずっと見ている間にだんだん飽きてくるというのが、正直なところ。
例えば戸惑った時に瞳がゆれる様子などは、いつものパターンだな〜
などと意地悪く考えてしまうのです。上手いとは思うのですが。

この傾向が顕著なのが、私の場合Martin Shaw(マーティン・ショウ)
です。「孤高の警部ジョージ・ジェントリー」(AXN Mystery)も、
ドラマ自体は好きなのに、主人公役のショウさんの顔の演技が
だんだんワンパターンに見えてきて、苦痛でやめてしまった(笑)
さらに彼の場合は、演技が上手くない(言い切ってしまった!)し。
相棒役のLee Ingleby(リー・イングルビー)さんは良いのにね〜。

話がかなり脱線してしまいましたが、
スティーヴ・クーガンさんがこの映画のプロジェクトを立ち上げてくれて
よかったと思います。とても素敵な映画ですから。
でも、彼は脇役を演じてる時の方がなんかしっくりきます(笑)

大阪ステーションシティシネマ にて鑑賞