ゆるり鑑賞 Yururi Kansho

映画や海外ドラマ、たまに本の感想を基本ネタバレで

「孤島の王」 〜たたかう鯨〜

kongen

公式サイト:http://www.alcine-terran.com/kotou/

監督:マリウス・ホルスト
製作:カリン・ユールスルー
原案:ラーシュ・ソービー・クリステンセン、メッテマリット・ボールスター
脚本:デニス・マグヌソン
撮影:ヨーン・アンドレアス・アンネシェン
美術:ヤヌシュ・ソスノウスキ
衣装:カチャ・ワトキンス
ヘアメイク:ティーナ・ヘルマルク
作曲:ヨハン・セーデルクヴィスト
(2010年 ノルウェー/フランス/スウェーデン/ポーランド 117分)
原題:KONGEN AV BASTOY

【ストーリー】
1915年。ノルウェーのバストイ島に、エーリング(ベンヤミン・ヘールスター)という非行少年が送還されてくる。
そこで彼が目の当たりにしたのは、外界とは隔絶した矯正施設のあまりにも理不尽な現実だった。
イジメにも似た重労働の懲罰、教育者による性的虐待。
尊大なる王のごとく君臨する院長(ステラン・スカルスガルド)や
冷酷な寮長(クリストッフェル・ヨーネル)にことあるごとに反発するエーリングの孤独な抵抗は、
優等生オーラヴ(トロン・ニルセン)など過剰な抑圧にさらされた少年たちの心を突き動かし、
生死を賭した反乱を引き起こしていく……。
(公式サイトより転記させていただきました)

ノルウェーオスロ南方75kmに位置するバストイ島には、1900年から1970年10月1日まで
少年たちの矯正施設が運営されていた。
監督が、実際にバストイ島で少年時代を過ごした男性と出会ったことをきっかけに、
1915年に起こった反乱事件(軍隊が鎮圧に出動した)についてもリサーチ。
この事件が何故起こったのか、少年達の抵抗と反乱、
また、その陰にあった内情を知らしめたいという思いから、映画化した。

この時代に、少年専用の更正施設が運営されていたというのは
一見進んでいるといった印象を持ちます。
実際、収容されていたのは犯罪を犯した少年ばかりではなく、
身寄りの無い子供や虐待された子どもなどもいたようで、
創立された当初は少年院と孤児院の両方の要素を含んでいたようです。

けれども、“キリスト教の教えに基づく更正”という本来の目的とはかけ離れた世界が
そこにはありました。閉ざされた世界で起こりがちな事が次々と明らかになるのです。

エーリングとアイヴァーは入所した瞬間から、名前ではなく“C-00”などという番号で呼ばれ、
裸にされ他の生徒たちの前に放り出されるという辱めをうけます。
このシークエンスによって、島では人権・人間の尊厳というものは存在しないのだなと
見ている者は悟ります。

ここまで完全な悪役だったのは、寮長。しかし私はまだ甘かったのです。
前半、ある程度良識ある人物に見えた院長だったのですが、
保身のために院内の不正をもみ消します。

「船長は本当は臆病だが、皆は彼を恐れている」
エーリングの語る物語に出て来る人物そのものですね。
そして、船長は最後には島を見捨てて逃げ出して行くのです。

「銛を3本打たれても死ななかった鯨。体は過去の戦いで傷だらけだった。」
自らの誇りを失わずに闘い続ける鯨は、エーリング自身を表しているようでもあります。

ノルウェーの寒くて暗い情景の中、理不尽な事ばかりが起きてちょっと気がめいります。
それでも、少年達が育んでいく信頼関係や正義感、オーラヴの瞳のきらめきなどに
心うたれるのです。寮内で、大きい子が小さい子の面倒を見てあげる様子は微笑ましかったしね。

そうそう、アイリッシュウルフハウンドを散歩させていた院長の奥様も
“良心を持った大人”を象徴する存在だったようです。

現在のバストイ刑務所(矯正施設の閉鎖以後に開設)では、
被収容者は一日数時間の仕事をすれば、後は自由時間という
恵まれた環境におかれているようです。
出所者の再犯率も30%と低いし。これを見る限りは
今のノルウェーはやっぱり進んでるのかナァと思ったりもします。

映画のラストに、当時のバストイ矯正学校の映像らしきものが映し出されましたが、
包帯で頭をグルグル巻きにした少年の痛々しい様子が目に焼きついています。

テアトル梅田にて鑑賞。