ゆるり鑑賞 Yururi Kansho

映画や海外ドラマ、たまに本の感想を基本ネタバレで

「灼熱の魂」 〜今年初の鑑賞作品は、見ごたえアリ!〜

incendies

公式サイト:http://shakunetsu-movie.com/pc/

監督・脚本:ドゥニ・ヴィルヌーヴ
原作:ワジディ・ムアワッド
(2010年 カナダ/フランス 131分)

※ネタバレ含みます。

【ストーリー】
初老の中東系カナダ人女性ナワル・マルワン(ルブナ・アザバル)は、ずっと世間に背を向けるようにして生き、
実の子である双子の姉弟ジャンヌ(メリッサ・デゾルモー=プーラン)と
シモン(マキシム・ゴーデット)にも心を開くことがなかった。
そんなどこか普通とは違う母親は、謎めいた遺言と二通の手紙を残してこの世を去った。
その二通の手紙は、ジャンヌとシモンが存在すら知らされていなかった
兄と父親に宛てられていた。遺言に導かれ、初めて母の祖国の地を踏んだ姉弟は、
母の数奇な人生と家族の宿命を探り当てていくのだった…。
(公式HPより転記させていただきました)

最初から最後まで心を捉えて離さない、圧倒的な力強さのある映画。

どこか中東らしき風景を望む一室に集められ、頭を刈られる少年達。
その表情は暗く、貧しさゆえか皆、裸足だ。その中に一人、かかとにタトゥーのある少年がいる。

レディオヘッドの“You and Whose Army”で始まる映像は、静かで何かゾッとさせるものがあります。
暗い社会や暴力、映像の中の子供達の未来にそんなものを予感させる怖さです。

カナダに住む双子の姉弟が母の遺言をかなえるため、彼女の母国(レバノン)に向かうのですが、
それは兄と父親を探す旅でもあると同時に、自分達のルーツを突き止める旅でもあるのです。

過去と現在がパラレルに描かれ、現在のジャンヌが登場したすぐ後に過去の(若い頃の)
母・ナワルのシーンが出てきたりするので、一瞬別人とわからずにとまどったりします。
ただ、各章ごとに話が進んでいくので、混乱することはありませんでした。

先ずジャンヌが一人で母の故郷を訪ねるのですが、どうやら母であるナワルは
一族の“恥”と捉えられている、大いに問題のある人物像であることがわかってきます。
ここから解き明かされていくナワルの人生の歴史は想像を超えたもので、緊迫したシーンが続きます。

まず、このナワルという女性の意思の強さが半端じゃありません。
敵対する宗派の男性と愛し合い子どもを生み、激しい内戦が行われている第一線に
あえて子どもを捜しに行く。無謀だ! でも、そこまではまだ良かったんですが…。

ナワル自身が暴力に手を染めてしまう所から、さらにこの物語の悲劇性が増すことになります。
かつては宗派を超えた愛を育んだ人間が、結局は憎悪をつのらせ暴力に走ってしまうという悲しさ。
しかし、ラストに読み上げられる双子の兄と父親に宛てられて手紙の中では、
ナワル自身の全てに対する許しが感じられ、憎悪と暴力の連鎖を断ち切る願いが込められているようでした。

私が、登場人物の中で一番の悲劇性を感じたのは、アブ・タレクその人でした。
ナワルが託した手紙の中に出て来る“共にいることが何より大切”という文章は、
敵も味方も無く全ての人が共存することの大切さを語っているのかもしれません。
テロリストとして教育される子供達がいまだに無くならない世の中ですが、
本来子どもたちにかけてあげたい言葉は、こういうものなのかなと。

1+1=1 その意味を理解するまで、私もジャンヌを同じ時間を要しました。
それでも、この兄弟が二人一緒だから辛い事実を乗り越えられるという意味では、
1+1=3にも4にもなるのかもしれませんね。

去年の後半は、比較的軽いタッチの映画との出逢いが多かったせいか、
久しぶりに重くて厚みのある映画を見た気がしました。

テアトル梅田にて鑑賞。