ゆるり鑑賞 Yururi Kansho

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「一枚のハガキ」 〜新藤兼人の遺言〜

ichimai

公式サイト:http://www.ichimai-no-hagaki.jp/

監督・脚本・原作:新藤兼人
プロデューサー:新藤次郎
音楽:林光
撮影:林雅彦
編集:渡辺行夫
照明:山下博、永田英則
美術:金勝浩一
録音:尾崎聡
ラインプロデューサー:岩谷浩
(2011年 日本製作 114分)

※ネタバレ含みます。

【ストーリー】
太平洋戦争末期、中年兵として招集された啓太(豊川悦司)ほか仲間99名の運命は、
上官によるくじ引きで決定した。仲間の定造(六平直政)はフィリピンに送られることになり、
戦死を覚悟した彼は啓太に妻の友子(大竹しのぶ)が書いた一枚のハガキを託す。
もし彼が生き延びることができたら、妻にハガキは読んだと伝えてくれと頼まれ…。
(シネマトゥデイより転記させていただきました)

知らない間に、テアトル梅田もオンラインチケット予約できるようになってたんですね。
3日前からネットでも劇場窓口でも、座席指定予約ができて楽チンです。

なんだかとても人気が高く混んでるらしいこの映画も、4週目に入ったせいかそれほどの混雑もなく、
座席を確保している心の余裕もあり、ゆったりとした気持ちで見る事ができました。

太平洋戦争末期に召集された中年兵士達。その中にいた新藤監督は、
クジにより前線に出発する事になった兵士に、妻からきた葉書を見せられます。
「今日はお祭りですが あなたがいらっしゃらないので 何の風情もありません。」

監督が今でも忘れることが出来ないというその文章は、妻にとってその兵士が
いかに大切な人なのかという事を、簡潔な文章で充分すぎる位語っています。

このエピソードは(記憶違いでなければ)「陸に上がった軍艦」(2007年)にも出てきたと思うのですが、
この映画では、そこから先の物語が展開されます。

新藤作品を見ていると、なにか劇場でお芝居を観ているような気分になる事があります。
リアリティをあえて追求しないというか、特徴を大げさに強調して描く手法が所々で見られるし。
定造達兄弟の出征シーンはカメラが固定されて、そのままのアングルで英霊として迎えられる等、
決してジメジメとした暗さでは描かず、どこか滑稽でコミカルです。

啓太と妻(川上麻衣子)のキャバレーでのシーンなんかも、かなり大げさ。
川上麻衣子さんのつけマツゲ、はずれちゃってますし。

私が好きだったのは、啓太の伯父(津川雅彦)と女房の会話。すごい味があって面白い。
ところで、家を売ったあの20万円はどうしたのかしらん?と、
そればかり気になる私はれっきとした俗物ですね。

定造の浴衣を着ていたとわかった後の「戦争はまだ終わっちゃおらんぞ!」という啓太のセリフは、
生き残った罪悪感に苛まれる彼の心の叫びかもしれません。

監督自身も「最初はくじ引きの結果によって助かった事を単純に喜んでいたが、
時間がたつにつれ、100人の中で6人だけが生き残った意味、何故自分は生き残ったのだろうと
その事について深く考えるようになった」というような事を言ってはりました。
「もういつ死んでもおかしくないのだから、戦争によって亡くなった人も、その人を愛する人も、
生き残る人も、すべての人に不幸をもたらす“戦争”について、語っておかなければならない」とも。

最後の監督作品という事で、ラスト、啓太夫婦が天秤棒をかつぐ姿は、
「裸の島」(1960年)の殿山泰司乙羽信子の姿を、意図的に重ね合わせているんでしょうか。

テアトル梅田にて鑑賞。