ゆるり鑑賞 Yururi Kansho

映画や海外ドラマ、たまに本の感想を基本ネタバレで

ポルトガル映画祭2010(その1)

東京国立近代美術館フィルムセンターで9月に始まった「ポルトガル映画祭2010」
11月は京都、12月にやっと神戸での上映です。
出来る限り見たいと思っていますが、会場まで家から1時間半近くかかるので
ちょっと気楽には行けないかなぁ。

『アニキ・ボボ』Aniki Bóbó
監督・脚本:マノエル・ド・オリヴェイラ
撮影:アントニオ・メンデス
(1942年/71分 劇場未公開作品)
aniki

【ストーリー】
カルトリスは、ガキ大将的存在エドゥアルドと美少女テレジニヤをめぐって争っていた。
ある日、雑貨屋のショーウインドゥに飾られている人形に見とれるテレジニヤの為に
なんとか人形を手に入れ、彼女の気を惹きたいカルトリスだったが…。

子供達の持つ圧倒的なエネルギーをこれでもかっ!と見せ付けられる。
なんかものすごくエネルギッシュというか、圧倒されるほどアクティブ。
エドゥアルドはなんだか恐ろしい位高い所から川に飛び込むし、
カルトリスは屋根づたいにテレジニヤの部屋を訪ねる。で、屋根から落ちそうになるし。
彼等は常に走ってる。

そこに子供達がいるせいか、その川の水の汚さも含めポルトの街が生き生きとしている。
カメラワークも素晴らしくて、より迫力が感じられるようだ。

アニキ・ベベ、アニキ・ボボ…というかけ声で始まる泥棒ごっこ(鬼ごっこ)。
夜には悪魔が来て悪い子を捕まえるというのに、子供達は夜にもこんな遊びをし、
後ろめたいカルトリスは幻影を見、悪夢にうなされる。

男の子は綺麗な女の子に思いを寄せ、少しでも気を惹こうと一所懸命。
女の子は母性をみせ、男の子は強がり、子供ながらにそこには恋の駆け引きが存在してる。

雑貨屋の主人や、ラスト近くカルトリスが乗り込もうとする船の船員など、
出て来る大人もどこかユーモラスで映画全体の雰囲気が暖かい。

こんなに素晴らしい作品なのに、この作品は当時興行的に失敗したらしいです。
オリヴェイラはこの後映画製作から遠ざかっていたようで、
次の劇映画「春の劇」を撮るまで21年の歳月を要しています。

「クレーヴの奥方」以降のオリヴェイラ作品しか知らない私にとって、一人の監督を
画一的なイメージで捉えたらあかんなぁと思い知らされると同時に、とても楽しい体験でした。
シークエンスの合間に雲の映像が映し出されるのを見て、あっオリヴェイラやぁ〜とか思いましたけど。

タイトルロゴのデザインもバクダン文字というか、なんか1942年という時代が感じられ面白いなぁ〜。


『春の劇』Acto de Primavera 
監督・撮影:マノエル・ド・オリヴェイラ
(1963年/91分 日本初公開作品)
Act

【解説】
16世紀に書かれたテキストに基づいて山村クラリェで上演されるキリスト受難劇の記録。
自ら「作品歴のターニングポイント」と述べる本作でオリヴェイラが発見したのは
「上演=表象の映画」という極めて豊かな鉱脈だった。
一見して不自然な「虚構」のドキュメントだけが喚起する謎と緊張。
前人未踏の「映画を超えた映画」の始まり。
(公式HPより転記させていただきました)

中世にポルトガルに伝えられ、演じられ続けてきた民衆劇「キリストの受難」。
キリストの受難を描いた映像はこれまで何回か見たけれど、
中盤でだいたい眠くなるパターンが多い気がする。。。。

劇で着る衣装を身に着けた村の女性が、同居する男性をかわして水を汲みに行くところから
飲んだら決して渇くことはないという井戸でイエスと会うところまで、
一連の流れがスムーズだったので、一体どこから劇が始まっていたのかしらん?と
最初はちょっと面食らったところもあり、けっこう引き込まれたんですが。

。。。。やっぱり中盤ちょっと意識が遠のいてしまいました。
聖母マリア役の人の声質がどうも生理的にイヤだったので、逆に目が冴えましたけど(笑)

ところで、キリスト教では罪のない神の子イエスは私たちのために苦しんだとされていますが、
一般の罪のない人々の苦しみもまた、わたしたちを贖うためのものなのでしょうか?!
私自身はそこに疑問を感じてしまいます。少なくても子供時代に苦しみなんて要らないと思うし。

ベトナム戦争原子爆弾等で罪のない人々が苦しむ様子が映し出されていて、
宗教から離れた視点でみたとしても、イエスを排除しようとするその時代の人間の愚かさと
現代の人間の愚かさが重なって見えるんじゃないでしょうか。

この時代に作られた映画に、ヒロシマナガサキの被爆者の映像が差し込まれている事に
少し驚くと共に、キリストを演じていた村人が振り向くショットが印象的。
ラスト5分程度でこんなに強烈な印象を残すとは。。。凄いですね。
さんざん演じられてきた受難劇は長い前フリやったんかなぁ、なんて思いました。


以上、神戸アートビレッジセンターにて鑑賞。

今回初めてこちらに伺いました。パイプ椅子とスクリーンの大きさは中崎町のPlanetPlus1さんに
似てますが、もっと大きなホールで席と席の間もゆとりがあります。
上映前に並ぶシステムみたいですが、当日に整理券を発行してもらえる方が便利かな。
そこだけ改善してもらえれば、とてもいい会場だと思います。