ゆるり鑑賞 Yururi Kansho

映画や海外ドラマ、たまに本の感想を基本ネタバレで

「存在のない子供たち」〜記憶に刻まれた子供たち〜

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公式サイト:http://sonzai-movie.jp/

監督・脚本: ナディーン・ラバキー
125分/2018年/フランス、レバノン
原題:Capharnaüm

※ネタバレを含みます

【ストーリー】
わずか12歳で、裁判を起こしたゼイン。訴えた相手は、自分の両親だ。裁判長から、「何の罪で?」と聞かれたゼインは、まっすぐ前を見つめて「僕を産んだ罪」と答えた。
(公式サイトより転記させていただきました)


久しぶりに、すごい作品を見た

ドキュメンタリーのようなリアルさを感じつつ、カリスマ性のある主役が演じる物語に強く引き込まれていく、そんな心動かされる映画

 

法的に存在していない子供たち
愛されず、教育を受けられない子供たち
第2級市民や不法就労者たち
演じるのは、登場人物と似たような境遇にいる人達ばかり

中でも自身がシリア難民でもある主役ゼインくん、そのスター性に惹きつけられる


映画は、ゼインが自分の両親を訴える裁判所のシーンから遡っていく

親から生活の糧として扱われてきたゼインの、唯一の拠り所でもあった妹サハル
その妹を必死に守ろうとする彼の努力もむなしく、彼女は強制的に結婚させられてしまう

親に見切りをつけた彼は家を飛び出し、助けを求めたのが不法滞在エチオピア人女性ラヒル
極貧とはいえ、彼女の赤ん坊ヨナスは愛情をもって育てられている
ここでゼインが守るべき存在は、自然とヨナスとなっていく
(このヨナスがまた、最高に可愛いです!)

しかし、ラヒルは不法就労で警察に拘束されてしまう
ゼインはヨナスの世話をしながら、毎日をなんとかしのいでいく
が。。。。

親からの愛情を知らないゼインが、自分より弱いものを守ろうとするその逞しい姿に感動し、心の中で必死に応援してしまう

どんなに厳しく辛いギリギリの状況でも、ゼインは常に冷静に行動しようとする
そんな彼が裁判で「自分のような子供をこれ以上増やさないで欲しい」と訴えた時や、面会で母に見せた怒りと悲しみの表情が胸に突き刺さる


監督が3年間レバノン国内でリサーチした事が元に作られた作品だけに、現実の重みを考えると暗い気持ちになる

私が知らなかったのは、レバノンでは完全に国民としては認められていない「第二級身分」というモノが存在するという事
ゼインの両親だけが一方的に「悪」なのではなく、社会制度自体が負の連鎖を引き起こしているという事
それでも、そこに「愛情」が存在していれば少しは救いがあるのだが

どこまでいっても、努力してもどうにもならない、すごい閉塞感

ただ、ゼインくんの逞しや賢さに感心し、その優しさに涙し、祈り、時に共感して夢中になっていたせいか、救いようのないしんどさではない
強く生きる彼に教えられ、勇気付けられた、そんな時間だった
映画としても、ちゃんと落とし所も心得ている

出演者達がこの映画をきっかけに、人生が好転したのではないかと考えると少し明るい気持ちにもなる

もちろん名もなき忘れられている人々が、今も苦しんでいる現実を忘れてはいけないし、欧州へ渡りたいと話していたストレートチルドレンの女の子に思いをはせるだけでもいいと思う

ここ日本でも、家庭内暴力など様々な事情で戸籍がない人々が存在するし、色々と問題が山積みなんですけどねぇ


この映画を見に行った日、シネ・リーブルが大入りの様子で嬉しくなりました。
メディアにでも取り上げられたんでしょうか? 広まるといいな

ぜひ、10代とか若い人達にも見て欲しい
この間、文部科学省選定の「風をつかまえた少年」を夏休み映画でオススメしたばかりだけど、本作はもう少し年長の子供達に見て欲しい作品です


シネ・リーブル梅田 にて鑑賞