ゆるり鑑賞 Yururi Kansho

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「ゲッベルスと私」〜あるドイツ人の生涯から見えるもの〜

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公式サイト:https://www.sunny-film.com/a-german-life

監督:クリスティアン・クレーネス、フロリアン・ヴァイゲンサマー、オラフ・S・ミューラ、ローラント・シュロットホファー
(2016年 オーストリア制作 113分)
原題:A GERMAN LIFE

 

※ネタバレを含みます

【ストーリー】

若きポムゼルは、第二次世界大戦中、1942 年から終戦までの3年間、ナチスの宣伝大臣ヨーゼフ・ゲッベルスの秘書として働き、近代における最も冷酷な戦争犯罪者のそばにいた人物である。本作は彼女が終戦から69 年の沈黙を破って当時を語った貴重なドキュメントである。
(公式サイトより転記させていただきました)


撮影当時103歳のポムゼルですが、しっかりと、そして時に鮮明に当時の事を語っています。
彼女のインタビューと、当時の記録映像・プロパガンダ映画が交互に映し出される構成です

 

最初はポムゼルの「何も知らなかった、私には罪はない」という言葉から始まります。
「罪があるとするなら、ドイツ国民全員に罪があった」とも言います。

編集でこれを最初にもってきたのだと思いますが、この言葉に彼女の基本的な考え方が表されている気がします。
と同時にこれが、その時代を生きたドイツ人が当時を振り返った際、自分を納得させる為の落とし所かもしれないなとも感じます

 

邦題の印象とは、内容がちょっと違うかも
ゲッベルスについては
「見た目の良い人で、手もよく手入れされていた。とにかく完璧だった」
「洗練された紳士で好ましい人柄なのに、いざ演説となると豹変し、驚かされた」
などと語られる程度です

むしろ、原題のように「一人のドイツ人の生涯」を通して、様々な事を考えさせられる映画だと思います

 

ユダヤ人教授の仕事をしていたポムゼルが、転職し(その為にナチスに入党する)勤めた放送局や秘書室が、素晴らしく高給だったことや、職場も身なりの良い人が多く上品な雰囲気だったと嬉しそうに語っています。

恵まれた上層部の人達が集まる職場は、金銭的にも精神的にも余裕があり、そこに属する事を彼女は誇らしく思っていたのかもしれませんね

自分の幸せには大いに関心があっても(それは当然の事ですが)、近くない所で行われている怖ろしい現実には、無意識に気付きたくない、知りたくないという気持ちが働いてしまうものかもしれません

実際、彼女の身近にいたゲッベルスや子供達が自殺したと知った時はショッキングだったと語り感情的になる一方、多くのユダヤ人が虐殺された事実については「戦後まで知らなかった」と淡々と語ります

 

全体主義下のドイツ人が当時、何を考えず何を見ないようにしたいたかが垣間見える気がします
もちろんドイツ人の中にも当時の政府に抵抗した人もいましたが、ポムゼルは彼らについても「早く亡くなってしまって気の毒」という感想を述べています
「あの体制から逃れるなんて、絶対にできない」とも

決して悪人には見えないポムゼルを見ていると嫌でも、悪の陳腐さ、悪の凡庸さ(ハンナ・アーレント)について思いを巡らすことになります
現在の私たちもとにかく、考えるのを止めたらダメですね

 

皮肉にも、最後にブルンヒルデが語った言葉がものすごく悲観的で、戦後に収監された事も含めて、その後の人生は精神的に厳しいものだったのかもしれないと感じます
「神はいない。でも悪魔はいる。この世に正義はない」

 

シネ・リーブル梅田にて鑑賞

 

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