ゆるり鑑賞 Yururi Kansho

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「あの日のように抱きしめて」〜人の心の弱さをあらわにする戦争〜

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公式サイト:http://www.anohi-movie.com/
※音声が出ますのでご注意ください

監督・脚本:クリスティアン・ペッツォルト
共同脚本:ハルン・ファロッキ
原作:ユベール・モンティエ
撮影監督:ハンス・フロム
編集:ベッティナ・ブーラー
プロダクションデザイン:アネット・グター
衣装デザイン:シュテファン・ヴィル
音楽:ヤチェック・ガチュコフスキ
製作総指揮:ピオットル・シュトエレキ
プロデューサー:フロリアン・ケルナール・フォン・グストフ / ミハイル・ヴィーバー
(2014年 ドイツ製作 98分)
原題:PHOENIX

※ネタバレを含みます。結末に触れていますので、ご注意ください

【ストーリー】
1945年6月ベルリン。元歌手のネリー(ニーナ・ホス)は顔に大怪我を負いながらも強制収容所から奇跡的に生還し、顔の再建手術を受ける。
彼女の願いはピアニストだった夫ジョニー(ロナルト・ツェアフェルト)を見つけ出し、幸せだった戦前の日々を取り戻すこと。
顔の傷が癒える頃、ついにネリーはジョニーと再会するが、容貌の変わったネリーに夫は気づかない。
 (公式サイトより転記させていただきました)

やるせない 映画

暗闇の中、車を走らせるレネ(ニーナ・クンツェンドルフ)
流れる曲は「Speak low(スピーク・ロウ)」
この、亡命したユダヤ人作曲家クルト・ヴァイル(Kurt Weill)の曲は、映画の中で重要な役割を果たす。
助手席には、顔中を包帯で巻いたネリーが居る。
印象的なオープニング


ネリーの世話をするユダヤ人の友人レネは、彼女の夫ジョニーを憎んでいる。
しかし、レネはその理由を小出しにしかネリーに伝えない。
彼女を傷つけたくなかったのか、生きる気力を失ってほしくなかったのか。

そんなレネの気持ちをよそに、ネリーは夫を捜し求める。
というより、幸せだった過去の自分を捜しているのかもしれない。
自分の存在を夫に気付いて欲しいと、必死で彼に訴えかける表情がせつない。

 

収収容所での経験があまりにも壮絶だったせいなのか、常にビクビクしている様子のネリー。
おそらく以前は、優雅で美しく堂々とした女性だったのだろう。
ジョニーが妻に気付かないのは、彼女の放つ雰囲気が以前とは大きく異なっていたせいではないのか。
彼自身の、過去の行為を封印したいという無意識の意識ようなものも関係しているのかもしれないが。

自転車を漕ぐジョニーにつかまる、ネリーの様子が微笑ましい。
この構図「東ベルリンから来た女」でもあった気がする。
ジョニー役の俳優さんがちょっとぽっちゃりで、モフッとした感じが可愛い。

終盤、友人達を前に、わざとらしい愛の言葉をささやいたジョニーの手を離し、ネリーのとった行動が潔かった。
この時、彼女は決心をしたんだと思う。
ある意味、ジョニーの方が何かを引きずりながら生きていくのかもしれない。
このラストシーンは見事。

劇中ではクルト・ヴァイル自身が歌う "Speak low" も流れるが、私はこのバージョンが好き。


Sarah Vaughan - Speak Low (Live @ The London House) Mercury Records 1958



ITVのドラマ「フォイル刑事(Foyle’s War)」でも、戦争中以上に戦後、人々の心の傷とその波紋を描いた話が切なかったのを思い出します。
戦争というものは、兵士はもちろんその家族の心に大きく暗い影を落とすのでしょう。
今、こうしている間にも、そんな経験をする人が増え続けているのだから、やるせないですね。

テアトル梅田 にて鑑賞

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