ゆるり鑑賞 Yururi Kansho

映画や海外ドラマ、たまに本の感想を基本ネタバレで

「追憶と、踊りながら」 〜無表情の下に隠れているもの〜

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公式サイト:http://www.moviola.jp/tsuioku/
※音声が出ますのでご注意ください

監督・脚本: ホン・カウ
主題歌: 李香蘭
(2014年 イギリス制作 86分)
原題:LILTING

※ネタバレを含みます。結末に触れていますので、ご注意ください

【ストーリー】
ロンドンの介護ホームでひとり暮らすカンボジア系中国人のジュン(チェン・ペイペイ)。
英語ができない彼女の唯一の楽しみは、優しく美しく成長した息子のカイ(アンドリュー・レオン)が面会にくる時間。
しかしカイは、自分がゲイで恋人リチャード(ベン・ウィショー)を深く愛していることを母に告白できず悩んでいた。
(公式サイトより転記させていただきました)

登場人物の心情がジワジワと染みてくる、そんな映画

ベン・ウィショーの主演映画は「ブライト・スター」(2009年)以来
今回、ウィショー君の演技にすごい感情移入してしまいました(涙)
華やかなストーリー展開とは無縁ですが、心動かされる作品です。
文化の違いや、そこから生じる誤解についても色々考えさせられます。

長年英国に暮らしているのに、ジュンはほとんど英語を理解できません。
たとえ中国人社会の中だけで生活し夫や息子に頼り切っていたとはいえ、日常生活で英語に触れる環境にあったはずなのにね。
そこに、移住した国に馴染もうとしないジュンの頑さが見えて、最初は彼女に好感が持てなかったのです。

また、欧米では18歳になった子供は家を出て一人立ちするものという印象があるので、ジュンとカイの密な親子関係もしっくりきませんでした。

息子を亡くしたジュンを心配し、なんとか彼女を元気づけたいと思う優しいリチャード
彼はカイが生きている頃から、母親をホームに入れる事に反対していたのです。
いい人すぎるやろ、リチャード!

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そんな彼とは対照的に、ジュンはリチャードの善意を素直に受け取ることができません。
この気持ちはわからないでもないですね。
自分が嫌っていると本人も知っている赤の他人が、何故自分に構うのか理解できないのでしょう。

ジュンは、リチャードが訪ねて来てもニコリともしません。
「何しに来たの?」という態度がアリアリです。
しかし、彼女に悪意はないのだと思います。
欧米の文化に全く染まってない彼女に、愛想笑いを求めるのが間違いなんですね。

例えば街中で、すれ違う人にドアを押さえた状態で待ってあげた時、欧米の人は比較的「Thank you」と微笑み返してくる人が多いと思います。
それに対して、アジアの中でも欧米化されていない大陸の人達は、我関せずな態度という印象です。
日本人も結構、当然のように素通りする人が多いかな(大阪だけか?)
逆に、タイの人なんかはニッコリしてくれるイメージです。
と、話がかなり脱線してしまいました。

中国人としての考えや習慣を変えずに生きてきた彼女にとって、信用できるのは家族、いや自分だけなのかも。
だとしたら、他人からの踏み込んだ親切にとまどうのは当然だと言えます。

だからこそラスト、リチャードの気持ちにそっと寄り添うようなジュンの柔らかな態度にグッときます。
そして、彼女のこの言葉もズキン!ときました。
「忘れていた傷が突然うずくような、、、それが孤独」

通訳のヴァン(ナオミ・クリスティ)やアラン(ピータ・ボウルズ)といった登場人物達にも、なんだか優しい気持ちにさせられます。

テアトル梅田 にて鑑賞

 

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