ゆるり鑑賞 Yururi Kansho

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「おやすみなさいを言いたくて」〜不条理なこの世界で〜

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公式サイト:http://oyasumi-movie.jp/index.html

監督:エリック・ポッペ
脚本:ハーラル・ローセンローヴ・エーグ
撮影:ヨン・クリスティアン・ローセンルン
音楽:アルマン・アマール
(2013年 ノルウェー/アイルランド/スウェーデン制作 118分)
原題:A THOUSAND TIMES GOOD NIGHT

※ネタバレを含みます

結末に触れていますので、ご注意ください

【ストーリー】
報道カメラマンのレベッカ(ジュリエット・ビノシュ)は、自爆テロに巻き込まれ倒れてしまう。
現地の病院まで迎えに来た夫マーカス(ニコライ・コスター=ワルドー)と共にアイルランドに帰国したレベッカだったが、今の生活は限界だと夫から聞かされる。
家族の事を思い扮装地域での仕事をやめようと決意するレベッカに、やがてケニアでの取材の話が持ち上がるが。。。


土曜日から、すっかりホビットの世界にはまり込んでしまっています。
気分転換でと見に行ったこの映画でしたが、けっこうガツンとやられました。


愛する人が無事帰ってくるのを“待つ”時間は、上の空とまではいかなくても何か落ち着かないものだと思います。
まして治安の悪い国、特に扮装地域からの帰国を待つ場合ならなおさら、気の休む暇がないでしょう。
(ちなみに心配性な私は、相方が出張で飛行機に乗るだけでも、いつも最悪の事を考えてしまいます)

カブールで自爆テログループの取材をするレベッカは爆発に巻き込まれ、命の危険にさらされます。
事故の事を聞いた家族は彼女の死を覚悟し、夫・マーカスは妻を捜しに遠くの国まで駆けつけてきます。

再会できた歓びをかみしめるレベッカとマーカスでしたが、この事故がきっかけで彼は心に鬱積していたものをレベッカに吐き出します。
それは、常に彼女の死の影におびえる生活は限界だということでした。

マーカスだけでなく、長女ステフも母親との間に距離を感じているのか、よそよそしい様子なのです。
また、天真爛漫な次女リサの心にも大きな負担がかかっていると、夫から告げられれます。
考えた末、レベッカは扮装地域に行く仕事を辞める決心をします。

恐怖心を植え付けるために、耳と唇を切り取られた少年。
その写真がきっかけで、レベッカが扮装地域で写真を撮る意味を理解しようとする長女ステフ。親子は少しずつ心を通わせていきます。
アフリカプロジェクトに参加しているステフは、母に舞い込んだケニアの仕事に同行したいと考えます。

ケニアでの難民キャンプの取材を一度は断ったレベッカに対し、マーカスは(その場所が比較的安全だということもあって)二人のケニア行を薦めます。

しかし、この難民キャンプで不測の事態が起こり、レベッカは本能にまかせて動いてしまいます。
泣き叫ぶステフを振り切り、他のスタッフに娘を託しキャンプに残ったのです。
それは母親としての責任を忘れてしまったかのような瞬間でした。

ステフは自分よりも仕事を優先した母親に、少なからずショックを受け落胆したのだと思います。
だからこそ、そんな母親の行動を父親には秘密にしておきたかったのでしょう。
この事件はステフの心に大きな傷を残したように見えました。

誘拐され洗脳される子供達、乱暴される女性達、暴行を受けやがて殺される男性達。
忘れられた地域で起こっているこんな現実を、多くの人に知って欲しいという思いでレベッカは写真を撮り続けています。
こういう地域で写真を撮り始めたきっかけを彼女は「怒り」だと言ってました。

けれど、こういう使命を果たしている人にも家族がいて、、、難しい問題です。
命の危険も顧みず使命に燃えるレベッカですが、家族の支えがあってこその彼女でもあり、犠牲にしているモノも多いと感じます。

一方、海洋学者のマーカスは対岸の工場から出る廃棄物(プルトニウム)が生物に与える影響を長年研究しています。
こちらも意義ある仕事ですが、家族に心配をかけるという事はそう無いわけで、おまけに普段子供の世話を一手に引き受けているのですから、マーカスの不満は理解できます。
ただ、妻に対して「死臭がする」って、言い過ぎじゃないですか?
普段優しいのに、一気に爆発する人ってなんか怖いなー。

ラストシーン、娘と同年代の少女が自爆に向かうと知った瞬間、激しく動揺してしまうレベッカの様子に胸が締めつけれます。
写真は現実を広く知らしめる為の道具だと思いますが、そこから何を感じどう考え、どう行動していくか。。。
その仕事は私たち一人一人の肩にかかっていると考えさせられる作品でした。

テアトル梅田にて鑑賞。

 

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