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ゆるり鑑賞 Yururi Kansho

映画や海外ドラマ、たまに本の感想を基本ネタバレで

「それでも夜は明ける」 〜まだ夜は明けていない〜

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公式サイト:http://yo-akeru.gaga.ne.jp/
※音声が出ますのでご注意ください

監督・製作:スティーヴ・マックィーン
脚本・製作総指揮:ジョン・リドリー
撮影:ショーン・ボビット
美術:アダム・ストックハウゼン
編集:ジョー・ウォーカー
衣装:パトリシア・ノリス
音楽:ハンス・ジマー
(2013年 アメリカ製作 134分)
原題:TWELVE YEARS A SLAVE

※ネタバレ含みます! 結末にふれていますのでご注意ください

【ストーリー】
1841年、奴隷制廃止以前のニューヨークでバイオリニストの
ソロモン・ノーサップ(チュイテル・エジオフォー)は
幸せな暮らしを送っていたが、ある日突然拉致され
奴隷として南部の綿花農園に売られてしまう。

前評判の高さゆえなのか、映画館でトレーラーの流れる回数が群を抜いて
多かった気がします。なので、いささか食傷気味だったかも。
それに加え、前作「シェイム“Shame”」 (2011年) では、見ていて結構
辛い映像があったので、今回ちょっと身構えてこの映画に臨みました。

見応えありました。重いし、見ていて辛いシーンも確かに多いのですが。

公式サイトによると「原作は、南北戦争が勃発する8年前の
1853年に出版されベストセラーとなった、アフリカ系アメリカ人
ソロモン・ノーサップの回想録である」とあります。
アメリカの北部で自由黒人だった彼が、拉致され、
南部で奴隷として売られ、その12年後に助け出されて元の場所へ
戻るまでが描かれています。

イギリスでの奴隷制度廃止法の成立(1833年)を描いた
アメイジング・グレイス」(2006年)、それから30年以上の時を経た
1865年に、アメリカで合衆国憲法修正第13条の下院可決が成されるまでを
描いた「リンカーン」(2012年)、この映画はちょうどその間の時代
1841年からの12年間のお話です。

ソロモン・ノーサップの原作については今回初めて知ったのですが、
自由黒人が拉致され売られる事もあったというのは、なんとなく
想像がつきます。これまで、このテーマで映画が作られていなかった、
しかもベストセラーになった原作があったのに手がつけられて
いなかったのは不思議な気もします。

物語とは直接関係ないのですが、ソロモンが奴隷として働かされる
農園や農園主の館などがとても美しいのです。「風と共に去りぬ」の
世界ですね。この美しい景色の中で行われるのがとても残虐な行為、
この対比がますます人間の恐ろしさを感じさせます。

特に、大工のティビッツ(ポール・ダノ)によって首に縄をかけられた
ソロモンがずっと木に吊られているシーンは、怖いです。
苦しむ彼の後ろで、奴隷達が普通に仕事をし、子供達は笑い声を上げます。
雇い主は絶対的存在であり、奴隷はその所有物にしかすぎないという
事実が静かにつきつけられます。

この事件の後、農園主で牧師のフォード(ベネディクト・カンバーバッチ)は
ソロモンをエップス(マイケル・ファスベンダー)に売ってしまいます。

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このフォードという人物、中途半端に良心の呵責を感じるタイプで、
奴隷を買いにきた際にもウジウジ迷った(ベネディクト上手い)あげく
結局親子を引き離してしまうし、こういう人の説教(ミサでの)は
説得力ないやん!と思います。こういう尊敬されるべき立場の人でさえ
人を奴隷として扱う事を当たり前にしてしまう、この社会が怖い。
一人一人は極悪人でなくても、集団でこういう(奴隷制という)ルールを作って
それが日常化してしまっている、麻痺した感覚とでもいうのか、それが怖いのです。

こういった普通の人も多く登場する中、生理的に嫌悪感を感じたのは、
ティビッツ(ポール・ダノ)と、エップスの妻(サラ・ポールソン)でした。
ティビッツは、見るからに小物で卑怯な、いわゆる弱いもの苛めの代表。
そして、執念深くて誰からも尊敬されない人物像。

エップス夫人も、自分では手をくださないあたりが卑怯なんですよね。
本当ならエップスに性的虐待を受けているパッツィー(ルピタ・ニョンゴ)に
同情しても良いと思うのですが、逆に彼女に嫉妬し辛くあたるという
とにかく自分本位でしか物事を考えられない、想像力に欠けた女性です。
裏番長じゃないけど(笑)、表立ってないこういう人は余計恐ろしい。

エップスはとんでもなく非情な主人ですが、パッツィーに対する異常な
執着心やお酒に溺れるあの様子、意外にもだまされやすい所など
何か哀しさがあるのですよね。弱い人間らしさみたいなものを感じさせる、
それが彼を憎みきれない原因でしょうか。

エジオフォー主演の映画は「キンキーブーツ“Kinky Boots”」(2005年)
以来です。舞台出身の俳優さんなのに、オーバーアクトじゃなく
さりげなく上手いなぁと思います。

他配役は、奴隷商人にポール・ジアマッティ、カナダ人の奴隷解放論者
バスにブラッド・ピットなど。このカナダ人がいなかったら、ソロモンの
その後の人生は全く違うものになっていたはず。(生きていられればですが)
マックィーン監督はこの長編3作目にして、すごいメジャーな映画!と思ったら
ブラッド・ピットのプロダクション“プランB”の製作とのことです。

ソロモンは家族の元に戻る事ができましたが、彼と一緒に働いていた
奴隷達の生活はもちろん、その後も続いた訳です。
ソロモンにしても、自由黒人とは言え、当然市民権もなく差別されていて
これでは全く平等とはかけ離れていますし。

ゲーリー家の人々―アメリカ奴隷制下の自由黒人

ゲーリー家の人々―アメリカ奴隷制下の自由黒人

 

 ↑ この本、なかなか面白そうなので読みたい。

邦題にある「夜は明ける」は、全くピンとこないし、説得力ないですね。
現在もまだ、世界のあちこちで“奴隷”は存在していますから。
この本は、紹介するのが3度目なので少々くどいかもしれませんが、
初めて読んだときは、衝撃をうけました。↓

グローバル経済と現代奴隷制

グローバル経済と現代奴隷制

 

アカデミー賞のスピーチで監督が「作品賞の栄誉を奴隷制度に苦しむ
人々に捧げる」と言っていましたが、私たちができることも何かあるはず、
そう考えるきっかけになれば!と思います。

現代奴隷制に終止符を!―いま私たちにできること

現代奴隷制に終止符を!―いま私たちにできること

 

 ↑ こちらは未読。今すぐ読みたい。

TOHOシネマズ なんば にて鑑賞。