ゆるり鑑賞 Yururi Kansho

映画や海外ドラマ、たまに本の感想を基本ネタバレで

ナショナル・シアター・ライヴ「フランケンシュタイン」

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NTLiveのFrankensteinのページ(英語):
http://ntlive.nationaltheatre.org.uk/productions/16546-frankenstein

 『世界最高峰のロイヤル・ナショナル・シアターが贈る
”ナショナル・シアター・ライヴ“では、
英国ナショナル・シアターで上演された最高の舞台を、
最新技術によりデジタル映像化し世界の映画館で上映していますが、
満を持して”ナショナル・シアター・ライヴ“の、日本上陸が決定しました! 』
(TOHO CINEMAS のサイトより転記させていただきました)

この企画の第1弾作品が、ベネディクト・カンバーバッチ(以下BC)と
ジョニー・リー・ミラー(以下JLM)がW主演した『フランケンシュタイン』。
監督はダニー・ボイルで、主演の二人がローレンス・オリヴィエ賞(2012年)の
主演男優賞を受賞した作品でもあります。

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先週はBCがフランケンシュタイン博士役でJLMが博士の創造物を演じたバージョン、
今週はその逆のバージョンを見てきました。

色んな発見があって、面白い。これは楽しめる!

今回初めて原作を読み感じたのは、過去にアメリカで作られてきた
“フランケンシュタイン”モノは、いかに怪物のシンボルとしての
イメージばかりを前面に出した作品だったかということ。
(アンディ・ウォーホールが関わった「悪魔のはらわた」なんていう
C級映画もありましたっけ)
原作では、クリーチャーは最初から凶暴な存在という訳ではなく
もっと人間の精神の根源的な部分に触れるような存在なのに
いつの間にか、そこからはかけ離れてしまったのですね。

フランケンシュタイン (光文社古典新訳文庫)

フランケンシュタイン (光文社古典新訳文庫)

 

この舞台は、原作の意図に沿ったものだと思います。
ただ原作とは違い、ヴィクター・フランケンシュタインがあまり
愛情深くない、結婚相手のエリザベスや家族に対しても淡々とした
態度をとる青年として描かれていました。

それは、この舞台がクリーチャーの目線で語られたモノだという事も
関係しているのかもしれません。原作とは逆に、ヴィクターの苦悩よりも
クリーチャーのソレが中心に描かれていたように思えます。

苦しくて重い話なのに時々笑える場面もあり、ずーっと深刻で
息が詰まるという感じではなく、いろんな感情が呼び覚まされる感覚を
持てるのが、この舞台の素晴らしいところじゃないでしょうか。

クリーチャーが、まるで母親の胎内から出た時のように外に飛び出し、
もがきながらも手足を使って一人立ちしようとする、その生命力。
自然の恵み・大地の息吹をその身で感じ取った彼が、生きている事に
一瞬歓びを感じ取ったかのような瞬間。
学ぶという事から生まれる、限りない疑問と人間の矛盾。
そして、人の暖かさに触れた後の、自分が受け入れられないと
知った時の絶望感、などなど。

このクリーチャーは、人間がおざなりにした、また忘れかけていた感情を
思い起こさせる存在として、最も人間らしいと言えるかもしれません。
俳優の演技はもちろんのこと、照明や舞台装置、音響などにより
見事にそれらが演出されています。

特に好きだったのは、盲目の老人とクリーチャーのシーンです。
ここでは、クリーチャーを愛おしく感じずにはいられません。
JLMのクリーチャーは、元々の彼の野性的な顔立ちのせいか(笑)
全く違和感がありませんでした。マンガ的で可愛くて、怖さがなかった。

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逆に、BCのクリーチャーは、普通に人間ぽくて創られた存在ならではの
不気味さを感じました。でも、とぼけた可愛さがあるのですよね。

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ヴィクター・フランケンシュタインに関しては、圧倒的に
BCが適役だったと思います。こういう名家の高飛車な坊ちゃん役、
そして女性の扱いを心得ていない役が、なんて似合うのでしょう(笑)

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一方のJLMは、その話し方が中上流階級のインテリとは思えないのです。
どうしても、ワーキング・クラスの兄ちゃんに思えてしまう(汗)
「トレインスポッティング」のイメージをいつまでも私が引きずってる
せいなのか、JLMのヴィクターはちょっとないなぁと感じました。

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ある程度予想はしていましたが、他の条件は同じでも主役が交代しただけで、
こんなにも印象が変わるのね〜!と実感するのも面白かったです。

ところで、クリーチャーに知識をさずけた元学者の老人を演じた
Karl Johnsonさんは、“Third Star”で、ボートのチケットを売りの
おじさん役だった人なんですね。
つかの間の心の平安というか、ほのぼのとした笑いが満ちた老人と
クリーチャーの時間。ここは何度も見たいと感じます。

かつてゲキシネにはまったのを機に、劇団新感線の舞台にも足を運んだ事が
ありましたが、今回のナショナル・シアター・ライヴを機に、ロンドンまで
芝居を見に行くというのは、なかなか現実的ではありません。
悲しいかな、言葉の壁がありますしね。

しかーし、ナショナル・シアター・ライヴの上映は今後も続くようですから、
ありがたいことです!
今回、本編上映前の映像でも流れていたトム・ヒドルストン主演の
シェイクスピア劇『コリオレイナス』(マーク・ゲイディスも出演)や、
ヘレン・ミレン主演の『ザ・オーディエンス』他、
なんかスゴイゾッと予感させる作品が続々上映されるようです。
海外ドラマnavi:
http://dramanavi.net/news/2014/02/2014-8.php
↑「フランケンシュタイン」も再上映されるようなので、
まだまだ見る機会がありますね。

前映像でも紹介されていた「War Horse」(ウォー・ホース)の
舞台ですが、日本で7月末から公演されるんですね。
チラッと映像見ただけでも、すごく面白そうでした〜。
ベネディクトも将来、何かの舞台で来日公演して欲しいもんだわさ。


TOHOシネマズ なんば にて鑑賞。