ゆるり鑑賞 Yururi Kansho

映画や海外ドラマ、たまに本の感想を基本ネタバレで

「最初の人間」 〜タイトルに捕らわれず、見て欲しい〜

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公式サイト:http://www.zaziefilms.com/ningen/音が出ます!

監督・脚本:ジャンニ・アメリオ
原作:アルベール・カミュ
撮影:イヴ・カペ
衣装:パトリシア・コリン
録音:フランソワ・ウァレディッシュ
音楽:フランコ・ピエルサンティ
製作:ブリュノ・ペズリー、フィリップ・カルカッソンヌ
(2011年 フランス/イタリア/アルジェリア 105分)
原題:LE PREMIER HOMME

※ネタバレ含みます。

【作品について】
「異邦人」「反抗的人間」等で知られるノーベル文学賞作家、
アルベール・カミュ(1913—1960)は、46歳の若さで自動車事故のためこの世を去った。
その際にカバンから発見された執筆中の小説「最初の人間」は、
30年以上の長い歳月を経て、1994年に未完のまま出版され、
フランスで60万部を売り上げるベストセラーとなり、
その後世界35か国で出版、大きな反響を呼んだ。
しかも、フランスに住む作家が、生まれ育ったアルジェリアに帰郷する、
という設定は紛れもなく自伝であり、カミュの創作の原点を知る上で大きな事件であった。
2013年に迫った“カミュ生誕100年”を記念し、遂に映画化されたのが本作である。

【ストーリー】
1957年夏。作家コルムリ(ジャック・ガンブラン)は、
今は老いた母が独りで暮らす、生まれ育った土地アルジェリアを訪れる。
仏領のこの地は、独立を望むアルジェリア人とフランス人の間で激しい紛争が起こっていた。
(公式サイトより転記させていただきました)

作家カミュの自伝的物語という事を意識しなくても、
一人の人間の成長と苦悩を描いた、とても素敵な作品です。
最初の墓地のショットからして、とても美しいですし。

幼い頃のアルジェリアの日々と、40代になったジャックがアルジェを訪れた1957年の夏が
平行して描かれていきます。

厳しい祖母、大らかな叔父、そして愛情深い母との日々、友達や先生との関係など、
ジャックの幼少期がイキイキと感じられるんですよね。
元々現地に住んでいた人達と、フランスから入植してきた人達が共存できたいた
そんな時代なんですね。

アラブ人の犬を逃がして犬小屋に閉じ込められたり、
文盲の祖母についてサイレント映画を見に行ったりと、
ほろ苦い思い出にもノスタルジーが漂い、趣が感じられます。

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フランス人とは言っても、ジャックの家庭は父親不在のせいでひどく貧しい様子。
彼以外の家族は字が読めなかったようですが、この時代のヨーロッパ人には
そういう事は珍しくなかったのだとしたら、すこし驚きです。
(そういえば、日本人は昔から識字率が高かったと聞いた事があるような。。。。)

そんな貧しい環境にありながらも、ジャックは良い先生との出逢いもあり、
進学できることになります。
母の恋路を邪魔しないようにしようとする彼は、なんて気配りのできる子供なんでしょう!
そして、初めて祖母に抵抗したあのシーン、
折檻用の道具を手にした祖母の呼びかけを無視する場面も印象的でした、
幼少期のジャックを演じた彼の名前が、公式サイトに出ていなかったのが残念です。

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40代のジャックを演じるのはジャック・ガンブラン。
いつも遠くを見つめているようなミステリアスな目元が魅力的な俳優さんですが、
今回気がついたのは、彼はとても長くて奇麗な指の持ち主だという事。
母が自分を出産した農場をジャックが訪ねるシーン(ここもとても素敵なショットの連続です)で、
農場主と話すジャックの指先にばかり目がいってしまいました。

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これは息子と母の深い愛が感じられる物語でもあるんですが、
大人になった息子が久しぶりにあった母に対して「奇麗だね」なんて
さらっと言える文化がうらやましいですわ。日本の男性陣ももっと
積極的に言いましょう!いや、言うべきです。

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独立運動が激化する最中にアルジェを訪れたジャックですが、
アルジェリアの陽光と地中海の煌めきは、その緊迫感からひと時彼を解放してくれたのでしょうか。
カミュはエッセイの中で「私の少年期を支配していた太陽は、私から一切の怨恨を抜き取った」と
書いていると公式サイトにも紹介されていましたが。

ジャックの恩師が語った言葉が印象です。
「抑圧する側の暴力は、抑圧される側の暴力を生む」

「テロや暴力は憎悪を生むだけで何の解決にもならない」という事は
今時誰でも認識しているはずだ、と思い込むのは
逆にとても危険な事かもしれないなぁとふと思ったりします。

その発言の社会的影響が大きい、そんな作家だからこそ
政治的問題についても意見を求められ、発言する事が当然だと思われている中、
発言を拒否し沈黙したアルベール・カミュの心情が、少しだけわかるような気がします。
この原作本は未読なので、読んでみようかな。

最初の人間 (新潮文庫)最初の人間 (新潮文庫)
(2012/10/29)
カミュ

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監督は「家の鍵」(2004年)のジャンニ・アメリオです。

梅田ガーデンシネマにて鑑賞。