ゆるり鑑賞 Yururi Kansho

映画や海外ドラマ、たまに本の感想を基本ネタバレで

「フード・インク」 〜“食”に関しての、知る権利〜

フード・インク [DVD]

フード・インク [DVD]

 

監督:ロバート・ケナー
(2008年 アメリカ製作 95分)
原題:Food, Inc.

 

【作品紹介】

 現代における食品の安全や業界の裏側に鋭く迫ったフードドキュメンタリー。

 

ここのところTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)の行方が気になります。
先日のニュースで拝見した自民党のTPP対策委員長の方も、
こんな事を言っては失礼ですが、そのお話ぶりからは
さほど頭の切れる方とは思えないので、不安がますます募ります。

なぜここまで気になるのかというと、アメリカの要求を飲み
これまで以上に、食品の成分表示義務がおろそかになる危険性に加え、
遺伝子組替の食品が押し売りされる可能性を強く感じるからです。
関税をなくす事自体には、私個人は反対ではないのですが、
表示義務の廃止をアメリカから強く要求される事が、恐ろしいのです。
せめて、消費者が食品を選択する権利だけは死守して欲しい。

私が幼少期を過ごしたのは、発ガン性の疑いがある
人工甘味料チクロ(思えばコレもアメリカで発明された)などの
食品添加物がなにかと話題に上ったり、
ヘドロ公害や光化学スモッグなど、急激に工業化への道を歩んだ
日本の問題が表面化した時代でした。
その影響もあるのか、物心ついた頃から自然環境や食物連鎖に
対しての関心が強い方だったと思います。
 

極端な環境保護団体のように「○○は悪いから排斥するべき!」
なんていう言い方や考え方には嫌悪感を感じますが、
この映画にはそういった説教臭い部分はなく
色々な角度から、工業化されたアメリカの農業における問題点が
語られます。

今見ると、以前から報道されてきた事なども含まれ目新しさはないのですが、
漠然と見えていた何かが、はっきりと形になって見えた感じもします。

 

ベルトコンベアで牛や豚が運ばれ、異常な早さで成長した鶏は
自分の足で歩くこともできない。
自社の農薬に対して耐性を持つ大豆が遺伝子組み換えにより開発され、
農薬を撒いた後の畑には、その大豆しか生き残らない。
こんな風に工業化されたアメリカの農業の中で、
ある酪農家の揺るがない姿勢には、共感できるものがありました。
自分の食べるものの由来に疑問も持つ ー そんな人達は
わざわざそういった農場まで足を運んで購入しています。
そういえば、アメリカはオーガニック認定の基準が
結構厳しんですよね。
安くて危険な食物か、高いオーガニック食品か、極端です。

ちなみに、この映画が長編ドキュメンタリー賞にノミネートされた2009年、
アカデミー賞を受賞したのは、和歌山県太地町のイルカ追い込み漁を
批判的に描いたと言われる(私は未見です)「ザ・コーヴ」です。
こういう映画が受賞するのも、極端なアメリカらしいなぁという気がします。

映画「モンサントの不自然な食べ物」や「世界が食べられなくなる日」で
取り上げられている多国籍バイオ化学メーカー、モンサント社
ベトナム戦争で撒かれた枯葉剤の一部はこの会社で作られたもの)が
この映画でも登場します。

映画の視点だけで物事を判断するのは気が引けるので
日本モンサント株式会社の公式HPをざっと拝読しました。
「収量を2000年度の倍にします」など、とにかく
生産効率の向上が「持続可能な農業」の形だと言い切っている
企業姿勢に驚きます。
個人的に、こういう考え方の会社は信用できないと感じました。

 

自由貿易の名のもとに、特定の巨大企業による押し売りが正当化されるのは
やっぱり許せないなぁと思うのです。

TPP参加によって食の安全が脅かされる可能性が大きいと感じる今、
これまで「食の安全」に関心がなかった方に、この映画を見ていただければ
日本が直面しているこの問題が、少しは話題になるかもと思います。