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ゆるり鑑賞 Yururi Kansho

映画や海外ドラマ、たまに本の感想を基本ネタバレで

「ライク・サムワン・イン・ラブ」 〜コミュニケーションの不在〜

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公式サイト:http://www.likesomeoneinlove.jp/音が出ます!

監督:アッバス・キアロスタミ
プロデューサー:堀越謙三
撮影:柳島克己
編集:バフマン・キアロスタミ
美術:磯見俊裕、菊池信之

※ネタバレ含みます。

【ストーリー】
80歳を超え、現役を引退した元大学教授のタカシ(奥野匡)は、
亡妻にも似た一人の若い女性明子(高梨臨)を、デートクラブを通して家に呼ぶ。
(公式サイトより転記させていただきました)

人間関係の希薄化。

都会の夜。ジャズが流れる店の中で、何かにいらだっているような声はきこえるものの
声の主の姿が見えない。やがて、携帯電話で話している明子の姿が映し出されます。

明子が話しているのは、付き合っている相手ノリアキ(加瀬亮)らしいのですが、
彼女がどこに誰といて、それが本当なのかと執拗に追求しているようです。

この不快かつ不毛な明子の応対と、その後の店での彼女の言動を見ていると、
ノリアキの勘ははずれていないのがわかります。どうやら彼女は彼に秘密のバイトをしているようで、
今日はどうしても会って欲しい客がいると、店のオーナー(でんでん)から頼まれているのです。

しかし、明子は田舎から祖母が出てきているのでと断ります。
この理由、一人暮らしの女性が男性客の誘いを断る際の常套手段やん!と思っていたら、
本当に祖母が出てきているので、ちょっと意外で面白かったですね。

店のオーナーに強引にタクシーに乗せられ、客の家へ行く事になった明子。
祖母が待ってるという駅のロータリーを2周する場面は、せつなくて涙が出そうになります。
唯一、このシーンだけは“愛”が感じられたとも言えるのですが。

しかし、たとえ愛する祖母であっても、急に状況してきて
留守電に何本もメッセージを残されるのは、私個人は窮屈に思ってしまいます。
この映画を見ていると、ますます電話が苦手になってしまうかも。
メールと違って電話は、直接的に時間を奪われるという感じがするのは
私自身が偏狭な性格だからでしょうか。

やがて明子は老教授の家に到着します。
ここは、温かみのある照明のせいか、広くもなく狭くもない空間のせいか、
なんだかとても寛げる空間だなぁという印象です。しかも本がいっぱいあるし。

ただ、隣に住むちょっと精神を病んでいるおばあさんが怖いんですよね。
タカシのストーカーのようでもあるし。

翌朝、大学まで明子を送ったタカシは、彼女を待ち伏せしていたノリアキと
遭遇します。ノリアキが車の中のタカシに気づいて近づくところ、怖いですね。
加瀬クン、役になりきってて怖いよ〜。

タカシを明子の祖父だと勘違いしたノリアキは、明子と結婚したいと打ち明けます。
ここでタカシに語らせたのは、人の言う事なんか聞いちゃいない、思い込みの激しい青年を
これでもか!と表現するためのものだったのでしょうか。
ストーカー→殺人へと続く道がなんだか見えた気がする、そんな人物像で、末恐ろしい。

彼が明子に言う「あとでちゃんと話そう」は、実のところ話すのではなく
「俺の言うこと、ちゃんと後で念押しするからな」なのです。

一方の明子も、自分の姿を全くさらけ出してなくて、嘘を重ねるだけ。
この二人の間には相互理解なんて、ありえないのです。

デートクラブの仕事に対してもプロ意識は無いようだし、自主性が感じられない明子。
彼女は一体何がしたいんだろう。。。。と正直、かなりイラッとさせられました。

タカシにしても、ノリアキに嘘がばれることを怖れる明子に対し「大丈夫、大丈夫」と
繰り返すばかり。何の根拠もない空しい言葉が、フワフワと飛んでいるような気がしました。

この3人、何かを喋ってはいてもそれはお互いの事を理解しようと試みているのではなく、
嘘や(明子)、自分を正当化するためものや(ノリアキ)、
その場限りの慰めや取り繕い(タカシ)なのです。
それが自分を孤独にしている一因だと、それぞれ気がついていないのが怖いのです。

この映画では、自然音というか、雑音というか
主だった登場人物のセリフ以外の音や声が、割合大きなボリュームで入ってきます。
最初の店の中もそうでしたが、特に印象的だったのはラスト、タカシの家から聞こえる物音。
近所の子供の声など生活の音が平穏な日常を感じさせ、ノリアキの怒声やガラスの割れる音と
実に対照的です。そして、物語は唐突に終わりをつげます。

キアロスタミに、またしてもヤラレタ〜という感じです。
ユニークな映画でした。

そうそう、タカシが家の前からバックで車を出す場面、エキストラの人達が自然すぎて
幼稚園児達が轢かれやしないかとヒヤヒヤしました。

梅田ガーデンシネマにて鑑賞。