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ゆるり鑑賞 Yururi Kansho

映画や海外ドラマ、たまに本の感想を基本ネタバレで

「ある婦人の肖像」と「ある貴婦人の肖像」

ブックオフでかなり前に買って、ずーっと温存していたヘンリー・ジェイムズの本。
先月から読み出して、上・中・下巻をやっと読み終わりました。

ある婦人の肖像 (上) (岩波文庫)ある婦人の肖像 (上) (岩波文庫)
(1996/12/16)
ヘンリー・ジェイムズ

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ヘンリー・ジェイムズは、意識の流れを描く文学の先駆者みたいな存在らしいですね。
以前、もっと短い物語を読んだ時はそれほど実感しなかったのですが、この物語では
登場人物の心理を描写する文章が面白くて、読む手が止まらない時もありました。
とはいえ「何かごちゃごちゃ理屈言ってるな〜」とイザベルにイラッとさせられて、
少し中だるみする箇所もありましたが。

物語をざっと説明すると、

父を亡くしたイザベル・アーチャーは、伯母の勧めでアメリカを離れ
伯父と従兄弟の住むロンドン郊外の館を訪れます。
ヨーロッパの文化に憧れを持つ彼女は、貪欲にそれらを吸収しようとします。
アメリカから彼女を追ってきたグッドウッドや、
タチェットの友人でもある貴族・ウォーバートン卿の求婚を退けてまで、
彼女が得ようとした自由と独立の精神は、果たしてつらぬけたのでしょうか。

。。。。みたいな感じです。

H.ジェイムズは、アメリカ生まれでその生涯の長きをヨーロッパで過ごしたという
自身の経験からか、異なる国(アメリカとヨーロッパ)の価値観や文化が交錯する物語を
書く作家としても知られています。その点でもこの作品は代表作と言えるのかな。

登場人物の中では、従兄弟のラルフ・タチェットが魅力的でした。
皮肉屋で、自虐的なほろ苦いユーモアの持ち主である彼が発する言葉は
なかなか面白いのです。

彼がイザベルに強く関心を抱いたのは、その生命力のせいじゃないでしょうか。
自分が長く生きられない事を自覚しているラルフは、彼女に自分自身の夢を託したのかも。

好奇心、知識欲が旺盛なイザベルですが、経験不足と自我意識の強さゆえ
自身を過信しがちです。その部分の描写も愛情を持って書かれていて、
作者はこの主人公が好きなんだなと感じさせます。

タチェットと比べると他の男性達は、なんだか存在感が薄くて気の毒な感じです。
ウォーバートン卿は、育ちがよく知性と誠実さを持ち合わせている人物として
描かれているという印象ですが、彼の心理は書き込まれてないせいか、
ラルフと比べるとこれといった面白みに欠けてしまいます。
彼が何故会って間もないイザベルに惹かれたのか、そのあたりの描写があれば
もう少し彼を理解できたかもしれません。

一方、アメリカ人の求婚者キャスパー・グッドウッドについては、もっと単純、
悪く言うと単細胞なイメージで書かれています。裕福な実業家で、スポーツマン。
ですが、一筋縄ではいかない粘着性を持ってるというか、彼の執拗な態度は
イザベラでなくても自由を求める女性なら敬遠したくなるものがあります。

そして、イザベルの夫となるギルバート・オズモンド。
たいした収入もない子持ちの中年男性で、ディレッタント(芸術愛好家)の彼は
一見、俗世間的なものにまどわされず芸術や美を追求した生き方をしているようですが、
実は、世間体や因習に縛られ、物質的豊かさ(お金)を重視するという
イザベラとは対称的な価値観の持ち主なのです。

こういうエセ自由人、そして妻の価値観や考えを認めないエゴイストという人物像は、
割と想像しやすかったです。そして、映画化された「ある貴婦人の肖像」で
彼を演じたのはジョン・マルコヴィッチですが、オズモンドの持つ空虚さと冷たさ
みたいなものが上手く表現できていたように思いました。

ある貴婦人の肖像 [DVD]ある貴婦人の肖像 [DVD]
(2011/09/09)
ニコール・キッドマン、ジョン・マルコビッチ 他

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監督:ジェーン・カンピオン
脚本:ローラ・ジョーンズ
製作:モンティ・モンゴメリー、スティーヴ・ゴリン、マーク・ターンブル
音楽:ヴォイチェフ・キラール
撮影:スチュアート・ドライバーグ
(1996年 イギリス 142分)
原題:The Portrait of a Lady

原作を読んですぐにこのDVDをみたのですが、今ひとつ登場人物の心理が描けてなかったのか、
142分という時間をかけたわりには、なんとなく浅い印象が残ってしまいました。

ただ、ジェーン・カンピオン監督らしい部分というか、エロスを感じさせる部分が
原作とはまた違った要素になっていて面白かったんですが。

アメリカから彼女を追ってきたキャスパー・グッドウッドを追い返した後、
一人イザベラが白昼夢を見るシーン。個人的にあまり色気を感じない
ニコール・キッドマンでも、ここはなかなか雰囲気が出ていました。
キャスパー・グッドウッドがヴィゴ・モーテンセンというのは予想外でしたが。
彼はどちらかというと、芸術家タイプに見えるのでミスキャストという気がします。

そして、イザベラが決定的にオズモンドにまいってしまうのが、ローマでの
キスだったようにも解釈できるあのシーン。それ自体は全くエロティックじゃなかったけど、
イザベラ自身が強く意識していないところで“エロス”というキーワードが
ちらちらと見え隠れします。

オープニングのタイトルロールで、キスの魅力を語る現代の女性たちが登場しますが、
ここと繋がるのかもしれません。カンピオン監督なりの切り口なのかなと思います。

斜めの視点から入るカットや、モノクロの旅のフィルムなど
あまりその効果がよくわからない部分も少々あり、
ちょっと期待はずれな部分もありましたが、原作を読んでから見るぶんには
それなりに楽しめる映画だと思います。

BBCでも1968年にドラマ化されたようです。

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(2004/04/25)
リチャード・チャンバレン、スザンヌ・ネヴィ 他

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BBCのドラマって、DVDがなんでこんなに高いのかなぁ〜?!
6500円近くを出して、もし出来が悪かったらイヤなので購入はしませんけど、
こちらも見て比較してみたいです。

原作では「ある婦人の肖像」となっている邦題が、映像化されたモノは
「ある貴婦人の肖像」に変えられています。
彼女は裕福ではありますが、地位から判断して貴婦人とは言えないのでは?
婦人ではインパクトがないから、こうなったのでしょうか?

H.ジェイムズ原作の映画化されたものは、他にも色々とあります。

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(2007/01/25)
オリヴィア・デ・ハヴィランド、ラルフ・リチャードソン 他

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ウィリアム・ワイラー監督、1949年のアメリカ映画。
地味で引っ込み思案な裕福な家の娘が、ある日出会った一人の男性に夢中になる。
父親に二人の関係を反対された娘は、家を出る決意をするが。。。。といった内容。
主役キャサリンを演じたオリヴィア・デ・ハヴィランドが上手い。
パッとしない初心な娘、初めての恋に舞い上がる様子、父親との確執、
男の本性を見抜いた後の不気味な怖さなど、それぞれのシーンで見る者を惹きつけるのです。
少々、後味の悪い映画ではありますが。

それから、ジェイムズ・アイヴォリー監督の「金色の嘘」、以前見た時はピンとこなかったんですが、
原作を読んでからもう一度見てみるのも悪くないかもと思います。

そんな中、今一番見たいと思うのはこのイギリス映画(1997年)。

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(2012/04/04)
ヘレナ・ボナム・カーター、ライナス・ローチ 他

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以前から気になってたこの作品、H.ジェイムズ熱がある今こそ見るチャンスだと思うし、
15年以上前の映画とはいえ926円ですよ! もちろん、即決で買いました。

あぁそうだ、原作も忘れないうちに入手しとこう。と思ったら、
本の方が高いやん!しかも上下巻やから合計で3000円以上する。。。。
原作はブックオフで探してみてから考えよう。あぁ、貧乏って辛いわ。

鳩の翼(上) (講談社文芸文庫)鳩の翼(上) (講談社文芸文庫)
(1997/09/10)
ヘンリー・ジェイムズ

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