ゆるり鑑賞 Yururi Kansho

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「ある秘密」 〜フランス映画未公開傑作選-1〜

公式サイト:http://www.eiganokuni.com/meisaku5-france/movie.html

監督・脚本:クロード・ミレール
脚本:ナタリー・カルテール
音楽:ズビグニエフ・プレイスネル
(2007年 フランス 110分)
原題:UN SECRET

※ネタバレ含みます。

【ストーリー】
1985年フランス。フランソワ(マチュー・アマルリック)は、過去を思い返していた。
元水泳選手の母タニア(セシル・ドゥ・フランス)と体操選手の父マキシム(パトリック・ブリュエル)の
間に生まれながらも虚弱な少年だったフランソワは、想像上の兄を創りだしていた。
ある日フランソワは、かつて本当の兄が存在していた形跡を屋根裏部屋で見つける。

原作↓ “1950年代のパリを舞台にした自伝的長篇”という事です。

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(2005/11)
フィリップ グランベール

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「なまいきシャルロット」(1985年)を撮った監督という予備知識だけで、なにげなく見たのですが
見ごたえのある素晴らしい作品でした。
監督は今年4月4日に亡くなられたので、今作品が遺作となってしまったようです。

モノクロで描かれる現在(1985年)と、戦後の少年時代、さらに遡ったナチス占領下時代の
3つが平行して描かれていきますが、混乱するという事もなく物語に引き込まれていきました。
特に、封印されていた両親の過去が語られるシークエンスは、どうなる事かとヤキモキしてしまいます。

マキシムが結婚式の日に、自分の運命の女性に出会ってしまったという皮肉。
すべてはここから始まった悲劇かもしれません。
その日結婚する相手とは異なる相手に、どうしようもなく惹かれてしまったらどうするか。
普通は、やっぱりそのまま結婚しますよね。

マキシムがタニアをついつい目で追いかけてしまうという描写が出てきますが、
案の定それは妻アンナ(リュディヴィーヌ・サニエ)の知るところになるわけで。

その後、アンナの取った行動は果たしてマキシムに対する復讐だったんでしょうか?
マキシムの一番大切なもの、すなわち息子シモンを彼から奪うという気持ちがあったんでしょうか?
それとも、ユダヤ人であるという事を誇りに思うあまりの行動だったのか?
いずれにせよ、自分の全てでもある夫の心が失われたというショックから
彼女が抜け出せていない状態であった事は容易に想像できるのですが。

疎開先でのタニアとマキシムの関係は、まさに一触即発といった感じで妙な緊張感があったのですが、
アンナが来ないと知った後の二人の仲は、やはり!という展開でした。
タニアのあの、抑えていたものが爆発したような表情、セシル・ドゥ・フランス上手いです。
彼女は、健康的であまり色気を感じさせないので、ちっとも嫌らしくなかったですけど。(笑)

にしても、なんだかなぁー。男女の仲ってよくわからんし、理屈では割り切れませんね。
一見、マキシムを避けていたよう見えたタニアは、無意識に何かを期待してあの疎開先に
合流したような気もするし。そうでなければ、お互い強い引力で惹かれあってても
モラルに反する相手とは、徹底して会わないようにするはずですから。
また、そこまで本能的に惹かれた相手であっても、精神的なつながりは強いとは限らないわけで。
男女の仲ほど、不確かな人間関係はないかもしれないなぁなどと思います。

なぜ特定の相手に執着するのか、この人間の心の不思議、男女の出逢いの不思議、
そんなものがホロコーストの悲劇と共に描かれています。
その悲劇はモノクロで描かれた現在にも尾を引いているようで、
この現在のパートが一番寂しげで、もの悲しく感じられるのです。

十三 第七藝術劇場にて鑑賞。