ゆるり鑑賞 Yururi Kansho

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「キリマンジャロの雪」 〜豊かさの基準とは〜

KILIMANDJARO

公式サイト:http://www.kilimanjaronoyuki.jp/音が出ます!

監督・脚本:ロベール・ゲディギャン
脚本:ジャン=ルイ・ミレシ
撮影:ピエール・ミロン
録音:ロラン・ラフラン、アルメル・マエ
美術:ミシェル・ヴァンデシュタイン
編集:ベルナール・サシア
衣装:ジュリエット・シャノー
美術監督:マレック・ハムザウィ
助監督:フェルディナン・ヴェレーグ
制作補助:ブリュノ・ガリアニ
(2011年 フランス 107分)
原題:LES NEIGES DU KILIMANDJARO

※ネタバレ含みます。

【ストーリー】
港町マルセイユの埠頭。
主人公ミシェル(ジャン=ピエール・ダルッサン)が労働組合の委員長をしている会社も
人員削減を余儀なくされ、労使間の協議で20名の退職者をくじで選ぶことになった。
ミシェルが次々と名前を呼び上げていく中、彼の名前が呼ばれる。
委員長の権限でリストラの対象から外せたにもかかわらず、彼は自分の名前もクジに入れていたのだ。
ミシェルは妻マリ=クレール(アリアンヌ・アスカリッド)に、自分がリストラにあったことを告げる。
妻は戸惑いながらも、気骨あふれる夫を誇りに思っていた。
(公式サイトより転記させていただきました)

複雑な気持ち。

この映画には、キリマンジャロも雪も登場しません。
ヘミングウェイの短編小説に同名のモノがありますが、そちらとも無関係。

ミシェルとマリ=クレールの夫婦は結婚30周年のパーティを開くのですが、
そこで子供たちからプレゼントされるのがキリマンジャロ行きの航空券と現金です。
このパーティが、リストラされた社員も含めあまり親しくない人達も招待されているという
日本ではおよそ考えられないもので、こんな大勢の人の前で多額の現金の入った入れ物を
おおっぴらに披露するというのも、日本人には無い感覚のような気がします。

そこには、心根のあまりよろしくない輩も来ているわけで、当然夫婦は
強盗のターゲットになってしまいます。
まず、ここが個人的にはしっくりこなかった理由です。

そして、この映画に対して賞賛する気持ちになれない最大の理由は、
「幼い弟二人を養う必要があるのにリストラされた青年だから」という事が、
強盗を働く理由のように語られているところです。
いや、厳密に言うと別に犯罪を肯定している訳ではないんでしょうが、
見方によっては、そんな風に受け取られかねないと感じます。

どんなに生活がひっぱくしていても、犯罪に走らず前向きに生きている人が
世の中には大勢いますから。
現実的に考えると、この青年は生活保護の申請もできるはずで、その事によって
たとえ弟達と引き離されるとしても、それが法を犯す理由には当然なりません。
しかも、あの青年は次の強盗も計画してましたから、同情の余地もありませんしね。

けれど、幼い子供達には罪はないんですよね。しかも、あの兄弟は素直で可愛いし。
マリ=クレールが世話してあげたくなる気持ちは、少しわかる気がします。
あの反省のかけらも見せない兄と、開き直りっぷりがすごすぎるその母親は
性根からたたき直さないとイカン!と鼻息が荒くなってしまいますが。あー、気を静めよう。

ミシェル夫婦は裕福ではないにしろ、生活には困らない程度の豊かさに恵まれています。
特に、南フランスの陽光をたっぷり浴びることのできるあのベランダ、良いなぁ〜♪
いやぁ、あの家に住んでるというだけでうらやましい。
確かに、アフリカ(タンザニア)の生活水準と比べたら雲泥の差ですよね。
日本人から見ても、あの生活が“貧しい”とはとても思えません。
何より、二人の様子からは“生活を楽しむ”という心の豊かさのようなものが感じられます。

ジャン=ピエール・ダルッサンとアリアンヌ・アスカリッドは、温かい人柄の
夫婦をさりげなく、しみじみと演じていて安心して見ていられます。
介護している老人からの長電話に付き合ってあげているミシェルには、
思わず笑みがこぼれてしまいますし。
ミシェルが兄弟を訪ねたときは、あんな所に大金を置いて帰るのかと
ちょっとドキドキしましたけど、思い直してくれて良かったです、ハイ。

マリ=クレールと娘フロの会話で、「犠牲なんかじゃなく、私自身が選んだ道」と
自信を持って言う母の生き方が、素敵やなぁと思いました。
それだけに、惜しい!映画です。
それと、白っぽい背景に白の字幕で、読めないセリフが多いのも残念でした。

梅田ガーデンシネマにて鑑賞。