ゆるり鑑賞 Yururi Kansho

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「ニーチェの馬」 〜もはや神は存在しない〜

THE TURIN HORSE

公式サイト:http://bitters.co.jp/uma/index.html

監督:タル・ベーラ
脚本:タル・ベーラ、クラスナホルカイ・ラースロー
撮影:フレッド・ケレメン
音楽:ヴィーグ・ミハーイ
(2011年 ハンガリー=フランス=スイス=ドイツ 154分)
英題:The Turin Horse

※ネタバレ含みます。

【ストーリー】
強風が吹き荒れる中、農夫(デルジ・ヤーノシュ)は、馬に荷車を引かせている。
彼の家は見渡す限り何もない場所にぽつんと一本の木が立つ場所にあり、
彼は娘(ボーク・エリカ)と二人でつつましい生活を送っていた。
娘は井戸への水くみや、腕が不自由な父の着替えの手伝いなどを淡々とこなしており……。
(シネマトゥデイより転記させていただきました)

トリノの広場で泣きながら馬の首をかき抱き、そのまま発狂したとされる
哲学者ニーチェの逸話に監督がインスパイアされ、生まれた作品。

風が吹き荒れる中、馬が荷車を曳いている。
なんていう風だろう。なんて大きな馬だろう。
プロローグ、この疲れきった馬をとらえた映像の持つ力強さに、まず圧倒された。

人里はなれた土地、厳しい自然環境の中でのギリギリの生活をしている父と娘。
その暮らしぶりは、極限の人間の営みといった風で、
笑いはもちろん会話さえほとんど無いに等しい。

ボイルしただけのジャガイモに塩をつけるだけのその食事も、まるで食べる楽しみを放棄したかのよう。
食に貪欲な私から見ると、食べる事が義務化してる様子が見ていて辛い。

そんな二人のルーティワークのような日々にも、ピリオドがうたれるという予感が
一日目、二日目と日をおうごとに、だんだんと大きくなる。

二日目、馬が荷車を曳かなくなり、
三日目、流れ者に井戸を荒らされ、
四日目、井戸の水が枯れ
五日目、暗黒の世界の中、火種まで消えてしまう。

祈りのない父・娘の生活には信仰が存在しない事が伺える。
流れ者から渡された本に書かれた反宗教的な文章、
焼酎を買いにきた隣人が語る話など、何かしらニーチェの思想を連想させる。
とはいえ、私自身ニーチェの本をちゃんと読んだことが無いので、大きな勘違いかもしれませんが。

すさまじい長回し・ロングショットゆえ、途中2度ほど意識が遠くなりましたが、
154分間を見終わった後にこんなに強烈な印象を残す映画は、久しぶりかもしれません。
暗闇の中で生のジャガイモを前に生きようともがく父と向かい合った娘、
この映像は長く脳裏に残りそう。

世界の終わりを描いた作品、今年は覚えているだけでもこれで3本目になりますが、
この映画を見た後では「メランコリア」が、装飾されたマガイモノの世界に見えてくるのだから不思議。

第七藝術劇場にて鑑賞。


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