ゆるり鑑賞 Yururi Kansho

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「ニッポン国古屋敷村」 〜小川紳介監督と小川プロダクション〜

シネ・ヌーヴォ上映特集サイト:http://www.cinenouveau.com/sakuhin/ogawa/ogawa.html

監督:小川紳介
撮影:田村正毅
詩:木村迪夫
[スタッフ]菊池信之、飯塚俊男、見角貞利、林鉄次、野坂治雄、畑中広子、白石洋子、伏屋博雄、浅沼幸一、見角貞利、広瀬里美、関一郎、藤森玲子、庄司孝志、佐藤仁吉、高橋辰雄
(1982年製作 210分)

※ネタバレ含みます。

【この映画について】
稲の凶作の原因を探るサスペンスフルな科学映画の前半から、村の古老たちが自分史を語り「ニッポン国」のフシギな姿が浮上する後半へ。
ベルリン映画祭国際映画批評家賞受賞作。
(公式サイトより転記させていただきました)

若かりし頃、本(たぶん淀川長治さんの)でこの映画のことを知ってから、ずーっと見たかった小川プロの作品。
こんなに年月を経てから初めて見る事ができたなんて、なんだか縁があったのかなぁと嬉しく感じます。

2週間という上映期間の間、なかなかタイミングが合わないのが悲しいところ。
今回は、農民でもある詩人・真壁仁が語り部となる『牧野物語・峠』と、『ニッポン国古屋敷村』の2本を鑑賞しました。

『ニッポン国古屋敷村』ですが、最初の1/3くらいは蔵王山系に位置する古屋敷村での米の収穫量と、気温・稲の開花時期・田んぼの場所・“シロミナミ”と呼ばれるヤマセなどとの因果関係を、科学番組さながらに探っていくという展開になっています。
この辺もまぁ面白かったんですが、ちょっと長かったせいか、土に含まれる鉄分の話あたりでウトウトしてしまいました。

その後、古屋敷村の人々にこれまでの人生について語ってもらうパートに入ってからはがぜん面白くなります。
小川プロダクションの仕事の特徴として、長期に渡りその土地に根をおろして地元の人々を撮影するという方法があるようですが、だからこそ聞ける話・見えてくる姿があるのかなという印象を持ちました。

大西暢夫監督の「水になった村」(2007年)を見た時にも感じた事でしたが、普通に暮らしている農民の生活、嘘のないホントのところが見えた気がするんですね。だから面白い。

「炭焼きで本当に苦労した」と語るお婆さんとそのお婆さんの名前がついた道の話、祖先が熊の祟りを恐れた為「決して鉄砲を持ってはいけない」と決めたのに、戦争に行った子孫は鉄砲を持たざるを得なくなるという皮肉な話、苦労して貯めた金で土地を買ったとたんに農地改革でその土地を取り上げられたと笑顔で語るお婆さん(このお婆さんはホントに朗らかな人やったなー)など、210分という上映時間を忘れるほど、新鮮で興味深いものばかり。

そしてやはりズシッときたのは、ラッパの吹き手鈴木さんの戦争の話と、「戦争とはただ一部の人が得するだけのもので、孫子の代まで真っ平」と苦々しく語る花屋さんの話でした。
特に鈴木さんは、悲惨な話を明るく語る魅力のある方で、ラッパを吹くちょっと誇らしげな表情は印象的でした。

炭焼きの様子を今回初めてじっくりと見ることができて面白かったし、養蚕についても蚕小屋と呼ばれるものの仕組みなど、初めて知る事が多かったです。
蚕の胸肢と呼ばれる部分には爪があって手の役目をしているそうですが、その手で桑の葉を持つようにして食べる姿が可愛らしいなぁと意外でした。

こういうじっくりと撮ったドキュメンタリーは、見る側も腰をすえてじっくりと見たい。
一日に何本も見るのではなくね。

小川紳介監督作品の中でも、(新東京国際)空港建設反対闘争と三里塚の人々を記録した作品群、「三里塚」シリーズは観たいと思っていたのですが、体力的に厳しいです。うーん、残念!

シネ・ヌーヴォにて鑑賞。