ゆるり鑑賞 Yururi Kansho

映画や海外ドラマ、たまに本の感想を基本ネタバレで

「新しき土」 〜原節子七変化〜

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公式サイト:http://hara-eiga.com/

監督・脚本:アーノルド・ファンク、伊丹万作
撮影:リヒャルト・アングスト、上田勇、ワルター・リムル
撮影助手:ハンス・シュタウディンガー
演出助手:ワルター・ジャーデン、ヘルベルト・チャーデンス
撮影協力:円谷英二
美術・装置:吉田謙吉
衣装:松坂屋
模型:浅野孟府
編集:アリス・ルートヴィヒ、アーノルド・ファンク
録音:中大路禎二
音楽:山田耕筰
作詞:北原白秋、西條八十
演奏:新交響楽団、中央交響楽団
製作:Dr.Arnold Fanck-Film、J.O.スタジオ、東和商事G.K.
プロデューサー:川喜多長政、大沢善夫、アーノルド・ファンク
進行:カール・ブーフホルツ
(1937年 日本/ドイツ 106分)
ドイツ語タイトル:Die Tochter des Samurai(侍の娘)

※ネタバレ含みます。

【ストーリー】
欧州留学を終え、ドイツ人女性ジャーナリストと共に帰国した青年輝雄(小杉勇)は、
一途に待ちわびていた許婚の光子(原節子)と、その父巌(早川雪洲)に温かく迎えられる。
しかし西洋の文化に馴染んだ輝雄は、許婚という日本的な慣習に反発を覚えて悩む。
輝雄の変化に気付いて絶望した光子は、婚礼衣装を胸に抱き、
噴煙を上げる険しい山に一人で登り始める・・・
(公式サイトより転記させていただきました)

摩訶不思議な映画。

1937年公開のこの日独合作映画は、当時の日本とナチス・ドイツの政治的・軍事的意図により
製作された作品でもあるようです。
日独版(ファンクが責任監督・編集)と日英版(伊丹が責任監督・編集)の2本の異なるフィルムが作られ、
当時は、これらが並行して公開されたようです。
(今回上映されたものはおそらくファンクバージョン)

冒頭、日本地図の立体模型のあちこちから煙が上り、日本=火山の国というのが
やたらと強調されます。
監督の一人、アーノルド・ファンクという人は、山岳映画で知られる監督さんなんですね。
この人、火山を使った山岳モノを作りたかったのかしらん。ラストの火山のシーンが
やたら長いながい。。。。

また、日本の春や富士山をバックにした美しい風景が多用されていますが、
どうにもツギハギだらけな印象が否めません。
光子の家の裏が厳島神社だったり(これには驚いた!)、
東京のはずやのに阪神電車のネオンサインがあったり、
僧侶が「神道」の教えを説いていたりと。

帰国した輝雄と妹が出かける先も、花見の後は相撲・能・日本舞踊等の
ザ・日本文化のオンパレードで、いかにもドイツに日本を紹介する展開がミエミエな感じ。
深読みすると、日本文化に触れた輝雄が日本の良さを思い出すという
ストーリー展開なのかもしれないけれど、それはかなり苦しいかな。

ちなみに、登場人物の東京での宿“ホテルヨーロッパ”は、一瞬“帝国ホテル”かと思いましたが、
兵庫県西宮市にあった旧甲子園ホテルが使われているそうです。
設計者はフランク・ロイド・ライトの愛弟子、遠藤新さんだという事で、どこか似ているのかも。
このホテル(今はもちろんホテルとしては使われていません)は実家の近くにあるので、
以前母と見学に訪れたことがあるのですが、全く気がつきませんでした。私の記憶力って。。。。

輝夫が留学している間の光子の様子を映し出す映像が、
原節子のプロモーションビデオみたいな内容で、
セーラー服や水着まで、彼女の若く美しい姿が映し出されています。
彼女はどちらかというと日本的な美人ではないので、洋装が美しいですね。

しかし、ここまでの国策映画とは予想しなかったですね。
「この狭い国土に、人が多すぎる」という言葉が何度も出てきます。
新しき土(新しい土地・満州)に日本人の手で国家建設をするべきだという
傲慢な考え方や、ラストシーンのあのアップにもちょっと嫌悪感が。

全体的に、へんちくりんな映画には違いないと思うのですが、
歴史的背景も合わせてこの映画を見ると、面白いかもしれません。

最後の特撮シーンを見て、なんだか円谷プロの作品みたい。。。。と思っていたら、
なんと『特殊撮影は円谷英二の手によって行われた』とありました。なるほど〜。

テアトル梅田にて鑑賞。