ゆるり鑑賞 Yururi Kansho

映画や海外ドラマ、たまに本の感想を基本ネタバレで

「少年と自転車」 〜皆、誰かの大切なひと〜

VELO

公式サイト:http://www.bitters.co.jp/jitensha/

監督・脚本・製作:ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ
助監督:カロリーヌ・タンブール
撮影監督:アラン・マルコアン
美術:イゴール・ガブリエル
衣装:マイラ・ラムダン=レヴィ
製作:ドニ・フロイド
製作総指揮:デルフィーヌ・トムソン
(2011年 ベルギー/フランス/イタリア 87分)
原題:LE GAMIN AU VELO

※ネタバレ含みます。

【ストーリー】
もうすぐ12歳になる少年シリル(トマス・ドレ)。彼の願いは、
自分をホーム(児童養護施設)へ預けた父親(ジェレミー・レニエ)を見つけ出し、
再び一緒に暮らすこと。
電話が繋がらない父を捜すため、シリルは学校へ行くふりをして
父と暮らしていた団地へ向かうが呼び鈴を押しても誰も出ない。
シリルを探しにきた学校の先生から逃れようと、診療所に入り、
そこにいた女性にしがみつき離れないシリル。
「パパが買ってくれた自転車があるはずだ!」とシリルは言い張るが、
部屋をあけてもそこはもぬけの殻だった。
ある日、ある女性がシリルを訪ねてくる。
先日の騒動の際にシリルがしがみついた女性、サマンサ(セシル・ドゥ・フランス)だ。
(公式サイトより転記させていただきました)

少年シリルの行動がせつなくて、冒頭から胸が締め付けられます。
親に見捨てられた子供がそれを認めるのは困難な事だろうと、想像するしかないのですが。
子供にとっては親は全てですよね。少なくとも幼いうちは。

どんな親であろうとシリルは父親を求めているのです。そんなシリルを見ていると
イゴールの約束』(1996年)で描かれる父子の関係を思い出します。
息子を悪の道に引きずり込む父親にもかかわらず、イゴールは父に従い彼の役に立とうとします。
それは、シリルの父親に気に入られたい愛されたいという気持ちと、重なる部分を感じます。

これまでのダルデンヌ兄弟の作品では、貧困や移民問題、罪を許すことの意味、
非行に走ったまま更正できない若者などなど…色々と重くるしいテーマが扱われてきました。
が、ネグレクトされている子供の問題は一番切ないです。
世界中の子供が皆“自分は大切な存在なのだ”と思える社会を作るのは
大人の義務ですよね。。。私自身も何もできていないのですが。

薬の売人の本性を見抜けず、彼の役に立ちたいと思うシリルの行動は、
父親に向けるはずの愛情の代替行為のようなものでしょうか。
このチンピラのキャラクターは、『ある子供』(2005年)で少年を手下に使い
悪事を働くブリュノ(ジェレミー・レニエ)と共通しています。
売人が組織の一員とかではなく、ただの小悪党でまだ良かった気もしますが。

しかし、ダルデンヌ兄弟の映画は緊張感があって疲れますね。
そうそう、今回は音楽がここ!というシーンで挿入されています。
それから、セシル・ドゥ・フランスが重要な役で出演していますよ。
愛情を押し付けない、一歩引いたところからシリルを見守るような
あっさりとした彼女のキャラクターには好感が持てます。
それだけに彼女の涙には、泣けました。

最後の最後で、あぁなんて悲しいお話にしてしまうの!と一瞬思いましたが、
そうじゃないんですよね?! そうじゃないと思います。

今作品で育児放棄している父親役のジェレミー・レニエが、『イゴールの約束』で
少年イゴールを演じたのは14歳の時。シリル役のトマス・ドレ君も、
ジェレミーのように大人になった後も素晴らしい役者になるかもしれませんね。

梅田ガーデンシネマにて鑑賞。