ゆるり鑑賞 Yururi Kansho

映画や海外ドラマ、たまに本の感想を基本ネタバレで

「ルルドの泉で」 〜人と比べる事なかれ〜

LOURDES

公式サイト:http://lourdes-izumi.com/音が出ます!

監督・脚本:ジェシカ・ハウスナー
撮影監督・製作:マルティン・ゲシュラハト
編集:カリーナ・レスラー
美術:カタリーナ・ヴェッパーマン
衣装:タニヤ・ハウスナー
製作:フィリップ・ボベール、スザンヌ・マリアン
(2009年 オーストリア/フランス/ドイツ 99分)
原題:LOURDES

※ネタバレ含みます。

【ストーリー】
不治の病により長年車椅子生活を送ってきたクリスティーヌ(シルヴィー・テステュー)は、
「奇跡の水が湧き出る」ことで有名な聖地ルルドへのツアーに参加する。
そこは、病を抱えた人や家族を亡くして孤独な老人、観光目的の主婦たちなど、
“奇跡”を求めて様々な人が参加していた。
そんな中、別段熱心な信者でもなかったクリスティーヌに奇跡が起こる。
(公式サイトより転記させていただきました)

キャッチコピーに“サスペンスフルドラマ”とあるので、そういうモノを求めて見にいくと
それは違うやろ!とつっこみ入れたくなるかもしれません。少なくとも、
物語の面白さやエンターテイメント性でみせるタイプの映画ではありません。

人間の欲望や嫉妬、怒りや迷いが描かれていて、見ている者に不安感や緊張感を若干与える、
そういう意味では大きなくくりで“サスペンス”と言えなくもないんですが、
物語は淡々と静かに、あくまでも醒めた目線で描かれています。

全体を通して流れる重苦しい空気は、“ルルド”という場所の現実が伝わってくるからでしょうか。
切実に奇跡を求めてやってくる人達がいる一方で、ある事ない事を喋る観光客達もいます。
また、マルタ騎士団(ローマ・カトリック協会の騎士修道会)のボランティア達はトランプに興じ、
司祭も問われた質問に機械的に答えているように見え、神聖な雰囲気は感じられません。

とりわけクリスティーヌの担当となったマリア(レア・セドゥー)というボランティアは、
最初の日こそ彼女に丁寧に接していましたが、段々と世話の仕方も雑になって
ついには車椅子の彼女を放置したまま、意中の男性の後を追いかける始末。
奇跡の回復を果たしたクリスティーヌに対しては、いっそう冷淡になっていたような。
なんだか、遊び半分・気分転換の為のボランティアといった感じです。
普段はクリスティーヌをほったらかしなのに、写真撮影の時だけちゃっかり彼女の背後に回ったり。
一番びっくりしたのは、ラストシーンでのマリア(この名前も皮肉)ですが。どんなけ音痴やねん!

また、同じく介護ボランティアのクノ(ブリュノ・トデスキーニ)からも、人間の小ささみたいなものが
感じられて、面白かったですね。こんな風に、皮肉な目線で人間を描いた映画なんですね。

そういえば、同室の老夫人はクリスティーヌの身内じゃなかったんでしょうか?謎です。
この人だけは、クリスティーヌに対する態度が全く変わらない。不思議な存在です。

謎といえば、ボランティアのリーダー的存在のセシルにはちょっと神経症的な行動が見られます。
罪の意識なのか、集合写真ではわざと顔を隠したり。
影の部分を感じさせる彼女でしたが、やっぱり秘密を抱えてたんですね。

回復したクリスティーヌが真っ先に行ったのは、鏡に向かい髪をとかし、イヤリングを付け
身支度を整える事というのが、いかにも若い女性らしくてリアリティがあります。
後半、画面を真っ二つに分ける影と光の中にたたずむクリスティーヌ、
その映像は何かを象徴しているようであり、印象的でした。

嬉しさのあまり、今後の希望など自分の事をはしゃいで話してしまうクリスティーヌは
回りからの嫉妬を招いてしまいます。そんな彼女を見ていてちょっとヒヤヒヤしました。
周りに配慮してあまり有頂天に振舞わないようにと考えるのは、やはり日本人的なのかなぁ。
ただ、マリアみたいに無責任なボランティアがいたら、日本ではもっと悪く言われるはず。
そこらへんは欧米の方が寛容なのかなと思ったり、文化の違いは面白いですね。

監督が、ここからテーマを着想したというカール・ドライヤーの映画。

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ヘンリク・マルベア、エミール・ハス・クリステンセン 他

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↑映像は大変魅力的なんですが、キリスト教の抱える矛盾を感じさせた今作とは大きく異なり、
こちらの物語で起こる奇跡&宗教観は、個人的にはちょっと苦手です。

ジェシカ・ハウスナー監督は、ミヒャエル・ハネケ監督に師事した方という事で、
じっくりと見据えたような映像の捉え方には少し共通したモノを感じました。
起承転結のハッキリした映画を求める方には向かないかもしれませんが、
私自身は、こういうテイスト好きです♪

梅田ガーデンシネマにて鑑賞。