ゆるり鑑賞 Yururi Kansho

映画や海外ドラマ、たまに本の感想を基本ネタバレで

「家族の庭」 〜人生は時に厳しく、時に優しい〜

公式サイト:http://kazokunoniwa.com/

ANOTHER YEAR

監督・脚本:マイク・リー
製作:ジョージナ・ロウ
製作総指揮:ゲイル・イーガン、テッサ・ロス
撮影:ディック・ポープ
編集:ジョン・グレゴリー
美術:サイモン・ベレスフォード
音楽:ゲイリー・ヤーション
衣装:ジャクリーン・デュラン
メーキャップ:クリスティン・ブランデル
録音:ティム・フレイザー
キャスティング:ニーナ・ゴールド
(2010年 イギリス 130分)
原題:ANOTHER YEAR

※ネタバレ含みます。

【ストーリー】
人生の秋を迎えた初老の夫婦、トム(ジム・ブロードベント)とジェリー(ルース・シーン)。
それぞれに打ち込める仕事を持ち、休日は野菜作りを楽しみ、美味しい手料理とワインを味わう。
おまけに弁護士の息子ジョー(オリヴァー・モルトマン)も親思いの好青年と、誰もが羨む幸福な
人生を送っている。一方、彼らの家を訪れる友人たちは、それぞれに孤独を抱えている。
特にジェリーの同僚であるメアリー(レスリー・マンヴィル)は、男運に恵まれない自分と
幸福なジェリーを比べては落ち込み、タバコとワインが手放せない。
(チラシより抜粋させていただきました)

なんやかんやバタバタしているうちに、後回しにしていた映画「ウィンターズ・ボーン」
上映が終わっていて軽いショック! はぁ〜、優先順位を間違ってしまいました。

いつの間にか(根本的に私は情報を把握できてないな〜)
マイク・リー監督の新作が上映されていたので、気を取り直して観に行く事に。
三大映画祭の「ハッピー・ゴー・ラッキー」に続き、今年はこの監督の作品を2本も出逢えたのが嬉しい♪

最初にジェリーの患者として登場する女性は、同監督作品「ヴェラ・ドレイク」の女優さんですよね?!
平凡なはずなのにすごい存在感というか。。。。ものすごいインパクトあるんですけど。
この女性は、幸せの点数をジェリーに問われて10点満点中1点だと答えます。
それでも、現実の問題には目を向けず睡眠薬を求める彼女。
これは、後々登場する人達の、人生との向き合い方にも通じるものがあるなぁと
後になって思い返されます。

話の軸となるのは、お互いに信頼しあっている老夫婦。
夫婦が耕す菜園に訪れる季節を春から夏、秋から冬と追いながら、話は進んでいきます。

この二人、お互いを尊重し合い、回りの人達に対しても思いやりを持って接していて、
あぁ、自分もこんな風に歳を重ねていきたいなぁと思わせる温かさがあります。
トム&ジェリー(アメリカのアニメみたいですね)は、穏やかで可愛い夫婦なんですよね。
(特にトムのエプロン姿はカワイかった)

でも、本当の主役はジェリーと同じ職場で働く長年の友人、メアリーかもしれません。
「独身生活を謳歌してる」といいつつ、人生の伴侶がいない状況に不安を感じ、
トム&ジェリー夫婦に半ば依存しているような彼女は、見ていてかなり痛々しい。
バーで見かけた男性に思わせぶりな視線をおくり、同僚の息子を積極的に誘惑する。

また、メアリーは自分の行動に対して言い訳が多い女性。
「いつもは吸わないの」といいつつタバコを吸い、ほんの少しと言いつつワインを飲んで車を運転する。
料理が苦手と開き直り、規則正しい食事もとっていないよう。
タバコとお酒に依存しているのは、明らかなんですが。

これは、夏のエピソードに登場する夫の幼馴染ケンにも共通することで、
見るからにメタボな彼は過食症気味というか、自分を抑制する力を失っているよう。
二人は、似たもの同士という感じなんですが、メアリーはそこんところに全く気が付いていない様子。
another year 02

秋になると、夫婦の息子ジョーの恋人ケイティが登場し、メアリーは激しく動揺します。
ケイティは明るくてユーモアにあふれた会話のできる女性。
そんなケイティに対し、露骨にライバル心を表し突っかかるメアリー。
ジェリーにまで、ジョーの相手としてケイティは良くないのではと意見したりします。

そして、冬。
トムの兄、ロニーの妻リンダの葬儀に出席する夫婦とジョー。
ロニーの息子カールは、他の登場人物とはあきらかに異なり、乱暴な言動が目に付く人物。
見るからに問題を持っているというのが他とは一線を画しているようでもあり、
問題と向き合っていないという点では、他の登場人物が抱えている問題とも共通するところが
あるかもしれないなぁ等とふと思ったりします。

夫婦の家で留守番をしていたロニーとメアリーのやりとりが、なんだか面白かったですね。
「話のできる人がいるってステキな事ね」というメアリーですが、一方的に話すだけではなく、
彼女が(自負するような)聞き上手になれる日が訪れる事はありそうもないので、
無口なロニーとは相性がいいのか?なんて思ったりします。

ラストまで見て、やはりメアリーが主役だったのかなぁという印象が強くなります。
メアリーが不幸なのは運が悪い(世の中の本当に運の悪い人とは違い)わけでもなく、
歳をとったせいでもなく、自分を客観的に観察し向き合う姿勢がとれないせいでは?と感じます。
冬にはスクラップになってしまった彼女の車のように、
自分の手に余るモノばかりを欲しがってばかりいるように見えてしまいます。
そんな彼女ですが、なんだか憎めない可愛さもあって。

全体を通して大きな事件も起きず、普通の人たちの普通の会話や表情を通して
物語はゆるやかに綴られていきます。共感できるところとできないところがあるけれど、
結果的にはあっという間の130分でした。

トム&ジェリー夫婦の菜園で採れた旬の野菜を使った料理は、美味しそう。
あの夫婦のお家になら、私もおよばれしたいかな。

テアトル梅田にて鑑賞。