ゆるり鑑賞 Yururi Kansho

映画や海外ドラマ、たまに本の感想を基本ネタバレで

「ペーパーバード 幸せは翼にのって」 〜笑うってことは素晴らしい〜

Pajaros

公式サイト:http://www.alcine-terran.com/paperbird/音が出ます!

監督:エミリオ・アラゴン
音楽:エミリオ・アラゴン
脚本:エミリオ・アラゴン、フェルナンド・カステッツ
プロデューサー:エミリオ・アラゴン、メルセデス・ガメロ
エグゼクティブプロデューサー:エミリオ・アラゴン、サンティアゴ・デ・ラ・リカ
撮影:ダビ・オメデス
(2010年 スペイン 123分)
原題:Pajaros de papel

※ネタバレ含みます。

【ストーリー】
喜劇役者のホルヘ(イマノール・アリアス)は、スペイン内戦中に爆撃で妻と息子を失い、
その後こつ然と姿を消す。
内戦が終結した1年後、マドリードの劇団にふらりと戻って来たホルヘを、
相棒のエンリケ(ルイス・オマール)は温かく迎える。
ある日、彼らは戦時中両親を失ったミゲル(ロジェール・プリンセプ)という少年と出会い…。
(シネマトゥデイより転記させていただきました)

序章で描かれる、戦時下における家族の日常は慎ましくも微笑ましいもので、暖かい雰囲気。
それだけに、このささやかな幸せが奪われる予感を、見る者に感じさせます。

時がたち、舞台に戻ってきたホルヘは過去を語りたがりませんが、
どうやら反政府組織の活動に関わっていたような気配があり、
それが後々の悲劇にもつながっていくわけなんですが…。

ホルヘと相棒のエンリケ、そして劇団に自分を売り込みに来たミゲルの3人は
戦後の食べるものにも事欠く貧しい暮らしを、日々なんとかしのいでいきます。
その様子はコミカルに描かれ、決して暗くはありません。
ただ、フランコ独裁政権下での重苦しい雰囲気が全体を通して感じられます。

この作品は、監督自身が祖父や父から聞いた当時の思い出話をlきっかけにつくられたようですが、
自由な表現が制限される社会とアーティストとは相容れる関係では無いでしょうね。
映画を見ながら「苺とチョコレート」(1993年)の主役ディエゴを思い出しました。
「芸術と政治は全く別のもの」と言う彼の言葉が、今作に登場する
自由を愛する芸人達の精神につながるものがあったからです。
同性愛者のディエゴの持つ柔らかい雰囲気がエンリケと似ているせいもありましたが。

相棒のエンリケ役は、アルモドバル監督作品が記憶に新しいルイス・オマール。
ミゲルの母的存在でもあるエンリケは、その後ブエノスアイレスでどんな人生を送ったんでしょうね。
そして、メルセデスも。フィクションだとしても、彼らのその後が気になります。

最初ミゲルを突き放していたホルヘが、徐々に彼と絆を深めていく様子、
そして彼の父親になる決心を固めたいきさつが、自然に描かれていました。
ラスト近く駅でのシーンが凡庸な展開に感じられたのは、ちょっと残念でしたが。

現在のミゲルを演じたのは、監督の父であるミリキ・アラゴンだそうです。
静かな演技ですが、表情だけで泣かされてしまいました。

テアトル梅田にて鑑賞。