ゆるり鑑賞 Yururi Kansho

映画や海外ドラマ、たまに本の感想を基本ネタバレで

「エッセンシャル・キリング」 〜映像の持つ力、再び〜

公式サイト:http://www.eiganokuni.com/EK/音が出ます!

ESSENTIAL

監督・製作・脚本:イエジー・スコリモフスキ
製作・脚本:エヴァ・ピャスコフスカ
音楽:パヴェウ・ミキーティン
撮影:アダム・シコラ
美術:ヨアンナ・カチンスカ
編集:レーカ・レムヘニュイ
録音:ロバート・フラナガン
衣装:アンネ・ハムレ
プロデューサー:ジェレミー・トーマス、アンドリュー・ロウ
(2011年  ポーランド/ノルウェー/アイルランド/ハンガリー製作 83分)
原題:ESSENTIAL KILLING

※ネタバレ含みます。

【ストーリー】
中東の砂漠らしき地域で、アメリカ軍の捕虜となったムハンマドヴィンセント・ギャロ)。
彼は、爆音のせいで一時的に聴力を失っているようだ。
捕虜を別の地へ移送する車が、イノシシを避けようとハンドルを切りそこね、横転する。
事故のドサクサにまぎれ、逃走したムハンマドだったが…。

久しぶりに見たヴィンセント・ギャロでしたが、全くそんな事を感じさせない
相変わらずの存在感でした。
コッポラの「テトロ」を見逃したので、ミカ・カウリスマキの「GO! GO! L.A.」以来です。
そうそう、イエジー・スコリモフスキは、「GO! GO! L.A.」でギャロと共演してるんですって。
監督が出てたのは、全く覚えてませんが。。。。

だってね、イエジー・スコリモフスキといえば、最近の監督作「アンナと過ごした4日間」から、
認識した私です。この映画は強烈でした。

そして今回も、映像が素晴らしい!

ESSENTIAL02

相当な痛手を負ったように見えるのに、雪の中を走る主人公。その時の景色が異様に美しい。
白銀の世界に夕日の色のグラデーション、この構図のバランス感。
大きいスクリーンでもう一度見たいなぁ。

そして前作と同様、夢か幻覚のような映像にも不思議な魅力が。
木になっている得体の知れない実を食べたムハンマドの前に、突如現れるムスリムの女性。
ワラワラとあふれ出す犬達も、彼が見た幻覚でしょうか。

そういえば、何かと動物達が印象的でした。
雪の中で気を失っている主人公に向かって吠える犬は、彼を凍死から救ったようにも思えるし、
その後、森の中の家に彼を導いたのも犬でした。
白い世界の中、立派な角をもった牡鹿の姿も神々しかった。
飢えているムハンマドも、何故か銃で動物達を殺そうとはしないのです。

飢えているといえば、授乳している女性の姿を目撃したその様子にもしや。。。。と思いましたが、やっぱり!
ちょっと笑ってしまいました。女性は気絶するし。いや、笑い事ではないかもしれませんが、
なんかユーモラスに感じてしまったシークエンスです。
通りかかった車に乗ってた人の「乳を放り出したままか?」というセリフも可笑しかったし。

この映画を見てると、滑稽な部分があってこそ人間って気もします。
ムハンマドは、ハリウッド映画に登場しそうな強くてカッコいい主人公では決して無く、
必死のパッチ!みたいな言い方ではちょっと軽すぎるくらい、死に物狂いに生き延びようともがいています。

また、ムハンマドの回想シーンから、彼にとっての神の存在の大きさが感じられるのですが、
こういうテーマに出くわすといつも感じる事があるのです。
一神教にみられる、神の教えが絶対なもの、全ては神の意志であるというような考え方に対する
私自身の嫌悪感です。自分の信じる神だけが絶対の正義であるなんて納得できないし、
神に身をゆだねるのではなく、自分自身で何が正しいのか考えて行動しようよ!と思ってしまいます。
まだまだ私が未熟者なので、そう思うのかもしれませんが。

ポーランド、リトアニア、ルーマニアにCIAの基地があると言われているのも、
今回監督のインタビューを読み、初めて知りました。
子供が生まれた事を電話で知らされ喜ぶ米兵には同情を感じますが、
米兵の捕虜に対する拷問シーンには、目を背けたくなるし。
一体誰が悪者なのか、そんな事はわからない世界です。
湾岸戦争からすでに21年、NATOアフガニスタンに攻撃を行ってから10年たちますが、
全く事態は好転してないように思えます。重い。。。。

雪の中、真っ赤な色を伴った白馬が登場するラストシーンまで、
映像の持つ力にもっていかれた感じがする作品でした。

十三第七藝術劇場にて鑑賞。