ゆるり鑑賞 Yururi Kansho

映画や海外ドラマ、たまに本の感想を基本ネタバレで

「未来を生きる君たちへ」 〜この不条理な世界で〜

公式サイト:http://www.mirai-ikiru.jp/音が出ます!

HAEVNEN

監督:スサンネ・ビア
製作:シセ・グラム・ヨルゲンセン
脚本:アナス・トマス・イェンセン
撮影:モーテン・ソーボー
音楽:ヨハン・セーデルクヴィスト
(2010年 デンマーク/スウェーデン製作 118分)
原題:HAEVNEN
英題:IN A BETTER WORLD

※ネタバレ含みます。

【ストーリー】
学校でいじめを受けているエリアス(マークス・リーゴード)は、
アフリカの難民キャンプで医師として働く父アントン(ミカエル・ペルスブラント)と
スカイプを使い話をする事で救われていた。
ある日、転校してきたばかりのクリスチャン(ヴィリアム・ユンク・ニールセン)に
助けられたエリアスは、彼と親しくなるが…。

より良い世界にするために、私たちには何ができるだろう?

デンマーク語のタイトル「Haevnen(ヘフネン)」の意味は“復讐”らしいのですが、
「未来を生きる君たちへ」という邦題は、作り手のメッセージが感じられてなかなか良いと思います♪

スサンネ・ビアの映画を見に行く時は、さぁ見るぞ!と気合を入れる感じがありますが、
今回もずっしり重かったですねぇ。
それでも、これまで見た作品(「しあわせな孤独」以降)の中で、一番見ごたえがあって面白くて、
カタルシスを感じる事もできて、回りの人にもお薦めできる映画ではないでしょうか。

いわゆる第三世界と言われる国とデンマークを対比させて描いたり、
大きな社会問題と家庭という一番小さな単位の社会でおきる問題を並行して描く。
彼女が好んで用いるこの方法が、今回ものすごく活きていると思います。

アントンは、非暴力の信念を貫こうとしますが、子供達にはそれが上手く伝わらず、
また自分自身もアフリカで暴力に対し、見て見ぬフリをしてしまいます。
クリスチャンは、母親の死を父親のせいだと思い込み、ぶつけようのない憎悪を抱え込んでいます。

理想的な考えだけでは解決できない現実の厳しさがリアルに感じられる一方、
どんな世界の人間にとっても、自身が愛され必要とされている存在だという実感が
とても大切なのだと感じさせます。

クリスチャンが母親の葬儀で朗読する詩は、とても印象的。
どうやら、デンマークの童話作家アンデルセンの「ナイチンゲール」のようです。

ナイチンゲール (アンデルセンの絵本)ナイチンゲール (アンデルセンの絵本)
(2004/08)
ハンス・クリスチャン アンデルセン、角野 栄子 他

商品詳細を見る

「美しい声で鳴く小鳥と淋しい皇帝の愛の物語
皇帝は、美しい声で鳴くナイチンゲールがお気に入り。ところが、機械仕掛けの小鳥を贈られると、
ナイチンゲールのことなど忘れてしまいました。
でも、重い病気になった皇帝を最後に救ったのは、ナイチンゲールでした。」

寛容な心を持ち続ける事の大切さを物語っているようで、このお話は映画の内容とも繋がっているのかも。

サマーハウスというのでしょうか?あの湖畔の家は素晴らしいですね。
北欧の人たちは短い夏を思い切り満喫したいという意欲が強いのか、
フィンランドの都会にすんでいる人の7割は別荘を持っていると
先日放送されていたNHKの北欧特集で見た記憶があります。
なんか、気持の豊かさを大切にするお国柄という気もします。

この作品を見ると、いやがおうにも世の中にはびこる暴力に対処する方法について考えさせられます。
アントン達が乗るトラックを追いかける、アフリカの子供達。笑顔がまぶしい彼らが
もしも悪への道にそれるとしたら、そのきっかけは“憎悪”なのかも。
映画の中では、あえて答えを示唆していないように感じました。
これから先、問題意識をもって考えつづける事が一番大切なのかもしれません。

人間が醜い争いを繰り返す間も、自然は変わらない姿でそこにあります。
美しい景観をとらえた映像が素敵。

そうそう、エリアス役のマークス・リーゴード君、なんだかマッツ・ミケルセンの息子さんですか?
って感じで、似てませんでしたか?

シネ・リーブル梅田にて鑑賞。