ゆるり鑑賞 Yururi Kansho

映画や海外ドラマ、たまに本の感想を基本ネタバレで

「天井桟敷の人々」 〜“恋なんて簡単よ”…なんて言ってみたかった〜

監督:マルセル・カルネ
脚本・台詞:ジャック・プレヴェール
撮影:ロジェ・ユベール
演奏:コンセルヴァトワール管弦楽団
(1945年 フランス)

※ネタバレ含みます。

【ストーリー】
19世紀初頭のパリ、タンブル通り。
見世物小屋の中で回転する樽の中に入っているガランス(アルレッティ)だったが、客の入りは悪い。
シェークスピア劇を得意とするルメートル(ピエール・ブラッスール)は、
通りを歩くガランスに声をかけるが、軽くあしらわれる。そんなガランスが訪れた先は、
代書屋の看板を掲げているが、裏では悪行を働いているラスネール(マルセル・エラン)の所だった。
一方、芝居小屋の一つフュナンビュール座の前には、口上を述べる父親から木偶の坊だと罵られている
パントマイム役者のバチスト(ジャン=ルイ・バロー)がいた。
(シネマトゥデイより転記させていただきました)

25年以上前の話になりますが、大阪堂島、毎日新聞社の地下にあった大毎地下劇場と
上層階にあった毎日文化ホールは、お金がないけど映画が好きという私にとって
ありがたい存在でした。毎日ホールでは2階席が好きだったのですが、
まさに天井桟敷と言えるこの場所で初めて見た「天井桟敷の人々」に
少なからずカルチャーショックを受けたのを覚えています。
「ホンモノの映画とはこういうモノなのかもしれないなぁ」等と、
それまで見てきた映画とは違う何かを感じたんですね。

年とともに感受性も鈍くなりましたので当時の衝撃とは比べようもないのですが、
劇場でこの映画を観ると良いですね。素敵な時間を過ごしました。

恋愛劇は、やはりフランスのお家芸と言えるでしょうか。セリフやしぐさの一つ一つが粋です。
そして、芸術性の高いエンターテイメントとして楽しめるというのがこの作品の特徴です。

フュナンビュル座の芸人バチスト・ドゥビュロー、俳優のルメートル、そして
殺し屋で詩人のラスネールは、実在(19世紀)の人物をモデルにしているという事です。
さらに、劇中劇「古着屋」はバチスト・ドゥビュローにより実際にタンブル通りの芝居小屋で
公演されていた演目のようです。劇中の劇も質が高くて面白いですね。
余談ですがパントマイム・アーティスト、マルセル・マルソーも「バチスト」という舞台で、
このドゥビュローを演じデビューしています。

一つ不満があるとすれば、エレガントで風格さえ感じさせるガランス役のアルレッティですが、
やっぱりちょっと老けてるというか、絶世の美女という設定にはムリがあるような。。。。

それと、一部の圧倒的な面白さに比べ、二部の話の展開にはちょっと凡庸に感じる部分もあります。
風のように自由やったガランスがあんな立場に身をおいていたり、
純粋そのものやったバチストがいとも簡単に不貞をはたらいたりと、
なんだかわかり易く堕落してしまったなぁと、登場人物の魅力が半減してしまいます。

いずれにしても、ナチス支配下でありながら、これだけの作品を作り上げるフランスの
文化的底力は凄いですね。マルセル・カルネ作品は他に、シモーヌ・シニョレ主演の
「嘆きのテレーズ」(1952年)しか観ていないのですが、やはりこの作品に比べると
小さく見えてしまいます。70年近くたった今でも輝き続ける映画は貴重。

TOHOシネマズ梅田「午前十時の映画祭」にて鑑賞。