ゆるり鑑賞 Yururi Kansho

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「ダンシング・チャップリン」 〜ダンサーは最も美しいことをする人〜

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公式サイト:http://www.dancing-chaplin.jp/

監督・構成・エグゼクティブプロデューサー:周防正行
振付:ローラン・プティ
音楽:チャールズ・チャップリン、フィオレンツォ・カルピ、ヨハン・セバスチャン・バッハ、周防義和
製作:亀山千広
企画:石原隆、新坂純一、小形雄二、中村光
プロデューサー:佐々木芳野、土屋健、関口大輔、稲葉直人、桝井省志、堀川慎太郎
撮影:寺田緑郎、西村博光、高岡ヒロオ
照明:長田達也、中山安孝
整音:杉山篤
録音:坂上賢治
演出補・編集:尾形竜太
タイトルデザイン:赤松陽構造
助監督:板庇竜彦
製作担当:須加卓巳
衣装・装置:ルイザ・スピナテッリ
バレエマスター:ジャン=フィリップ・アルノー
ヘアメイク:馬場利弘、小沼みどり
通訳・アシスタントプロデューサー:名嘉地圭
(2010年 日本)

※ネタバレ含みます。

【ストーリー】
1991年初演のローラン・プティ振付、ルイジ・ボニーノ主演のバレエの名作
「ダンシング・チャップリン」を、ルイジと草刈民代の共演で映画作品にする企画がスタートする。
演出の構想を携えてプティのもとを訪れる周防正行だったが、プティは簡単には首を縦に振らない。
そして本番。13演目からなるバレエのステージが幕を開ける。
(シネマトゥデイより転記させていただきました)

見ごたえありました。
第一幕「アプローチ」これは、映画のメイキングのようなもの。この後5分間の休憩を挟み、
第二幕「バレエ」これは、チャップリンの映画と人生をモチーフとした2幕20場のバレエ
「ダンシング・チャップリン」を映画化したもの。
第一幕はドキュメンタリー、第二部はバレエ作品という事になります。

バレエ界の巨匠振付家ローラン・プティのこのバレエを1991年の初演から踊り続ける
ルイジ・ボニノが、この映画でもチャップリンを演じます。とにかく彼が素晴らしい!
彼のバレエはもちろんですが、映像から伝わるその人間性に強く惹かれます。

振付師でもある彼は、稽古中に厳しくプロフェッショナルな目線を他のメンバーにおくりつつ、
その明るさで場を和ませます。仕事にシビアでかつ陽気というのは理想です。
人間として円熟してはりますね。冒頭、自身の年齢を聞かれて
「皆、そればかり聞く」と言ってましたが、素敵な還暦ダ!

そして、プティと周防監督のやりとり、せめぎあいが面白い。
「二人の警官」「警官たち」のパートを公園で撮る(ロケ)予定だと言う周防さんに対し、
「だったら映画は中止だ」というプティ氏。さて、どうなったんでしょうか?
第二幕を見れば答えはわかりますが、うん、これで良かったと思いました、私は。
なんだか、懐かしいフランスのミュージカルの一シーンのように感じました。

チャップリンの息子ユージーン・チャップリンが登場しますが、口元がお父さん、
それから女優ジェラルディン・チャップリンにそっくり。他の兄弟もこのDNAを
受け継いでいるのか、お顔を拝見してみたい気がします。

もう一つ、面白かったのは「空中のバリエーション」で草刈さんをリフトする
黒子の役割をつとめるダンサー。
このダンサー「クラシックはあまり踊った事が無い」等と言い訳しますが、
リフトの経験がどうやら無い様子で、草刈さんを安定した状態で持ち上げる事がなかなか出来ない。
そこで、草刈さんが安心して任せられるパートナー、リエンツ・チャンを呼び寄せる事に。
ここでは、リエンツを呼ぶのに経費の問題はクリアできるのかといった発言もあり、
なかなか生々しいやりとりを見る事ができます。

リエンツにリフトされる草刈さんは、以前とは打って変わりリラックスした様子。
そらそうやんねー。逆に降ろされたダンサーは複雑な表情。
でも、そこはやっぱりシビアにいかないと、良い作品はできませんよね。

そして、いよいよ第二幕。

今さらながら、ダンサーというのも俳優と同様“表現者”なんやなぁという事を再認識しました。
ボニーノの表情・ダンスからは、チャップリンの世界が持つ優しさや哀感みたいなものが伝わってきます。

「ティティナを探して」椅子一つでこれだけの表現ができるんですね。
「小さなトゥ・シューズ」首にチュチュを巻き、手にトゥ・シューズを履いて、
踊る様子はほんとに面白い。有名なパンにフォークを刺し足に見立てて踊る
あのチャップリンの映画のシーンを思い起こさせます。
「街の灯」ボニーノと草刈さん、二人の情感あふれるダンス。草刈さんの表現力は特に素晴らしいですね。
「外套」上の二人に加え、外套を操る黒子との三人の流れるようなダンスに惹き付けられます。

周防監督が言うように、この作品はバレエ知識の無い人でも充分楽しめる、
バレエ入門的映画になるんじゃないでしょうか。

テアトル梅田にて鑑賞。