ゆるり鑑賞 Yururi Kansho

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「バベットの晩餐会」 〜目にも心にも美味しい映画〜

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監督:ガブリエル・アクセル
製作総指揮:ユスツ・ベツァー
製作:ボー・クリステンセン
脚本:ガブリエル・アクセル
出演者:ステファーヌ・オードラン
音楽:ペア・ノアゴー
撮影:ヘニング・クリスチャンセン
(1987年 デンマーク)
原題:BABETTES GASTEBUD

※ネタバレ含みます。

【ストーリー】
19世紀後半、ユトランド(デンマーク)の小さな漁村
美しい姉妹マーチーネ(ビルギッテ・フェダースピール)とフィリパ(ボディル・キュア)は、ルター派の敬虔なキリスト教牧師の父に仕え、献身的な人生を過ごし年老いていった。
そんな姉妹の元に、フランスから亡命してきた婦人バベット(ステファーヌ・オードラン)が訪れ、家政婦として働くようになる。

年末の「眺めのいい部屋」に引き続き、「午前十時の映画祭」にて。
公式サイト:http://asa10.eiga.com/2011/
この映画も、ビデオでは何度も観ているものの劇場では初鑑賞です。
DVD・ビデオ共に現在発売されていないこの作品を上映してもらえて、良かった〜♪

未読ですが、原作です。↓

バベットの晩餐会 (ちくま文庫)バベットの晩餐会 (ちくま文庫)
(1992/02)
イサク ディーネセン

商品詳細を見る

“幸福”とは何なのか、そんな言葉が頭に浮かぶ作品です。

冒頭、身が引き締まる思いのする映像です。
それは、自然の厳しさを思わせる海の風景とうら寂しい村の様子からだけではなく、登場する姉妹(マーチーネとフィリパ)のこれぞ“清貧”という暮らしぶりから伝わってくる感覚かもしれません。

この村、かれいを干している様子や暗い海の色はちょっと山陰の漁村みたいなんですが、かれいの一夜干しの焼いたのが美味しいのに比べ、ここの村の干しがれいの調理方法は何だか食欲をそそるものではありません。
さらに、パンを水にひたして最終的には茶色いノリ状になったオートミール・ポリッジみたいなのが、いかにもまずそうです。
あの食べ物はデンマークで実際に食べられてるんでしょうか?

そんな感じで、ルター派の敬虔な信者である村人達にとって“食事”とは、基本「神のしもべである肉体を維持するためのもの」であり、バベットの「芸術であり、人々を幸せにするもの」という考えとは全く異なるスタンスなんです。
これは、芸術的歓びとして歌うオペラ歌手アシール・パパンと、神に捧げる歌(聖歌)として捉える牧師一家の考え方の違いにも通じますね。
マーチーネはパパンの世界へと誘われかけましたが、結局自分達の世界へと戻っていきます。

晩餐会に出されたウズラのパイを見て、ローレンス(将軍)はパリのレストラン“カフェ・アングレ”の女料理長の創作料理だと気づき、彼女の事をこう表現します。
「食事を恋愛に変えることができる女性。情事と化した食事においては、肉体的要求と精神的要求の区別がつかない」
上手いこと言いはるわぁ〜。

ローレンスとパパンは、物語のキーマンでもあり魅力的な人物です。
若い頃の彼等が登場する前半は後半の伏線の役割も果たしていますが、それだけではなく、見せ場と思われる晩餐会のシークエンスと同じくらいこの静かな昔話のような前半部分が、個人的にはとても好きです。

BABETTE'S

さてさて、バベットの晩餐会ですが、
海亀のスープに始まり、キャビアのドミドフ風ブリニ添え、
うずらのフォアグラ詰めパイケース入りソースペリグール、サラダ、チーズ、ラム酒風味のサヴァラン、
パパイヤやパイナップルまでが盛られた新鮮なフルーツの数々といったメニュー。

もちろん料理に合わせ、アモンティリャード(アペリティフのシェリー)、
ヴーヴクリコ(1860産シャンパーニュ)、クロ・ヴーショ(1845年産赤ワイン)、
コーヒーの後のコニャック(ハイン フィーヌ・シャンパーニュ)と
素晴らしいラインナップ(とは言っても私には全くわからないんですが)の飲み物が振舞われます。

晩餐会では味覚が無い様に振舞おう、食事の話は一切しないでおこうと固く誓い合う信者達でしたが、これまで経験したことの無いその味わいに、心動かされていきます。
「美味しい」等という言葉等は一切ありませんが、そこには至福の時間が流れています。

事が終わり、クロ・ヴーショを飲むバベットの表情からは自分の手で作品を仕上げたような満足感が伺われます。いいシーンです。

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バベット曰く「貧しい芸術家はいません」
この映画には良い言葉が数多く出てきます。

登場人物が皆どことなく可愛いのも、この映画にファンタジー色を感じる一因かもしれません。
レーヴェンイェルム夫人の御者や晩餐会でサーヴしていた少年等、脇役の人達も見事にこの作品を魅力的にするのに欠かせない、味付けのひとつになっています。
星空の下、手をつなぎ輪になって賛美歌を歌う信者達の様子も美しいですね。

TOHOシネマズなんばにて鑑賞。