ゆるり鑑賞 Yururi Kansho

映画や海外ドラマ、たまに本の感想を基本ネタバレで

動くな、死ね、甦れ!

監督・脚本:ヴィターリー・カネフスキー
(1989年 ソビエト連邦
http://www.espace-sarou.co.jp/kanevski/top.html

【ストーリー】
第二次大戦直後のロシア。収容所地帯と化した小さな炭鉱町に生きる
少年ワレルカと少女ガリーヤは共に12歳。スケートの盗難事件、
学校のトイレにばら撒いたイースト菌事件、機関車の転覆など、
ワレルカの引き起こす無垢な、しかし、やってはならない悪戯は、
母親への反発と相まって次第にエスカレートしていく。
そんな彼の前に、守護天使のように現れては、危機を救ってくれるガリーヤ。
二人に芽生えた淡い想いは次第に呼応していくが、
やがて運命はとんでもない方向へ転じていくのだった…。
(公式HPから転記させていただきました)

よさこい節」が聞こえてきて、あれっ?と思う。
あぁ、この町には戦後強制連行された日本人も収容されているんだなぁと
気が付いた時点で、もう映画の世界に引き込まれていた。

これが、1989年の作品とは思えない。
監督の言葉「自分の子供時代を甦らすため現在という時の流れを止めた」と
ある様に、この極東の町のまさにこの時代をそのまま映し出したようだ。

炭坑町であるスーチャンの子供達は、厳しい労働に労働に従事する大人たち、
強制労働させられる収容所の囚人達に囲まれた生活を送っている。
それでも、子供というのは生命力の塊だなぁと感じさせられる。
こんな場所にいても、どこか瑞々しさを放つ存在。まさに子供は光であり希望。
ガリーヤはいいなぁ。聖母ガリーヤ。ワレルカの母のような存在。
ワレルカは、無邪気で可愛いところも残しつつ屈折していて破滅的でもある。
ここから、彼がどうなっていくのかも大いに気になるところ。

ここには、あまりにも過酷な生活・現実のため、正気を失ってしまう人が
登場する。この描写は監督の過去の記憶から自然と出てきたものかもしれない。

ネフスキー監督のプロフィールには、ロシア映画学校在学中に無実の罪で
投獄され8年間の獄中生活を送る、とある。
こんな経験をしていても、映画の中で直接的な政治批判はない。
当時の政権の歪によって形成されたこの過酷な世界を見せられることで、
見ている側は想像力を働かせ、色々と考えさせられる。

自由な芸術表現を求める人達にとって、こういう社会を生きることは
想像を絶する辛さではないだろうか。昨日「カティンの森」を観た後も
同じような事が頭をよぎった。

五木の子守唄は昔から好きなのに、これからこの歌を聴くと
なんだかこの映画の事が頭をよぎりそう。
それから、やっぱり日本人は何度もお辞儀する国民性なのねん。