ゆるり鑑賞 Yururi Kansho

映画や海外ドラマ、たまに本の感想を基本ネタバレで

ミリキタニの猫

ピース・キャッツ 「ミリキタニの猫」画文集ピース・キャッツ 「ミリキタニの猫」画文集
(2007/08/30)
マサ・ヨシカワ(編著)

商品詳細を見る
監督 リンダ・ハッテンドーフ
(2006年 アメリカ)

2001年、ニューヨーク・ソーホー。リンダ・ハッテンドーフは
路上で暮らすジミー・ミリキタニを撮影しはじめる。やがて9.11のテロが起き。。。。
ホームレスの日系人アーティスト、ミリキタニ氏のドキュメンタリー。

シネ・ヌーヴォにて鑑賞。
今回、ドキュメンタリーなので基本的にネタバレです。ご注意下さい。

アメリカを垣間見た様な気がした映画。
映画の前半、ミリキタニ氏は日本に帰りたい、日本人の心は素晴らしい等と、
日本への郷愁をあらわにしますが、彼が日本でホームレスをしていたらどうなっていたかを
想像すると、うすら寒い気がします。

監督のリンダ・ハッテンドーフは、ホームレスのミリキタニ氏を自分の部屋に招き、
彼の為に奔走します。
彼女とのふれあいによってミリキタニの心が少しずつほぐれていく様子が微笑ましい。
ミリキタニ氏は彼女の家に居候しながらも、変に遠慮しない。
彼女の帰りが深夜を過ぎると我が娘の様に叱ったりして、それも可笑しい。

アメリカといえば、何かが悪いとされると一斉に攻撃してするという
困った正義感を感じる国との印象を持つ人も多いと思います(実際私も)。
例えば、喫煙や肥満などに対しても。

しかし一方で、リンダの様な博愛主義的な人の存在を強く感じられる国でもあると
思うのです(宗教の関わりも大きいかもしれませんね)。

それから、複数のお金持ちがそのお金を社会に還元しようとする姿勢も好きです
(ヨーロッパのお金持ちもそうですが)。
(似合いもしないアルマーニとか宝石にやたらお金をかけて自慢してる成り金さんを
取材したりするというマスメディアにはうんざりします。)

また、9.11後のアメリカでの報道が片寄ったものになってしまったりする一方で、
少数派の意見を持つ国民も自分達の意見を主張して(その為に差別されたとしても)
黙っていない。このあたりがアメリカのいい所ではないでしょうか。
(関係ありませんが、個人的にはタイ好きです。)

アメリカに移民した日系人の歴史と強制収容所については、二十数年前に放送していた、
NHK大河ドラマ『山河燃ゆ』を観て初めて知りました。
当時、アメリカナイズされていた私には、アメリカに対する印象がちょっと違ってきたぞという
ちょっとショッキングなドラマでした。
しかし、これはあくまでもドラマであって、主役の市川染五郎(現在の松本幸四郎)さんが
カッコいいあまりリアリティのない悲劇という印象だった気がします。

強制収容所の体験は、たとえ生き残ったとしても、その人の後の人生に
大きく暗い影を残すものだと容易に想像できます。
しかし、過去に対するまた、アメリカという国に対するわだかまりが
溶けていったと思われるミリキタニ氏の言葉に、なんだか人間って
そんなに捨てたもんでもないなぁなどという漠然とした感動が沸き起こりました。
人と人との関係性がリアルに見えてくるという意味で、
ドキュメンタリーの素晴らしさを感じる作品でもあります。

印象的だったのは、若い頃、水墨画を描いているミリキタニ氏はいかにもプロらしく
見えるのに、今の彼の絵はなんだか素人っぽいタッチなんですね。
ただ、その絵がすごくイキイキしていて色彩には何か惹き付けられるものがあるんです。
また音楽もすごく印象的で、エンドロールの間、気持ちよく聞き入ってしまいました。
個人的には、猫の魅力も満載でよかった!

先日観た「水になった村」といいこの作品といい、今、ドキュメンタリーがいいですね!