ゆるり鑑賞 Yururi Kansho

映画や海外ドラマ、たまに本の感想を基本ネタバレで

「ジョジョ・ラビット」〜心震える音楽の力〜

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公式サイト:http://www.foxmovies-jp.com/jojorabbit/

監督・極本:タイカ・ワイティティ
製作:カーシュー・ニール、タイカ・ワイティティ、チェルシー・ウィンスタンリー
製作総指揮:ケビン・バン・トンプソン
原作:クリスティン・ルーネンズ

2019年製作/109分/アメリカ

原題:Jojo Rabbit

※ネタバレを含みます

【物 語】
第二次世界大戦下のドイツ。
空想上の友人アドルフ・ヒトラーに励まされ、立派な兵士になるべく奮闘中の10歳の少年ジョジョ。
しかし、心優しいジョジョは、訓練でウサギを殺すことができず、教官から〈ジョジョ・ラビット〉という不名誉なあだ名をつけられる。


この映画に恋をした!


ブラックな内容だけど、とんがってるわけじゃない。
ドライなタッチでコミカルに描かれている作品、なのに、なのに。。。

ラスト、ボウイの曲が降ってきた瞬間からブワーッ!と何かが降りてきた。
感情の高まりとあふれ出る涙に、我ながら驚き。
こういう体験をしたら、映画を見る事がやめられなくなる。

そうだ、平和になったら踊りたかったんだよね。

浜田桂子さんの絵本「へいわってどんなこと?」で
へいわって「大好きな歌を大きな声で歌えること」みたいな事が描いてあったけど。
好きな芸術や音楽を楽しめることは、とても大切なんだと改めて思う。


ユダヤ系でもある監督が、自らヒトラーを演じている。
こんな映画、大日本帝国陸軍をネタに日本でも作って欲しい!

例えば「陸に上がった軍艦」(新藤兼人原作・脚本/山本保博監督 2007年)
これを見ると、戦争の愚かさやアホらしさがリアルに伝わってくる。
とても良い映画だけど、あくまでも真面目な記録的作品という感じなので。。。

私が期待するのは、もっと笑えて楽しめて感動できる「物語」のある映画。
ナチスやヒトラーをネタにしたコメディは結構つくられているのに、
日本でそれが出来ないというのは、過去の清算がきちっと出来てない証拠かも。

例え作られたとしても、今の日本では上映許可出ないかもしれないなぁ?
なんて思ってから、そう考えてしまう今の状況ってやっぱり危ないと改めて思う。


ジョジョとヨーキーのコンビが可愛くて、可愛くて♪
スカーレット・ヨハンソンとサム・ロックウェル、
この二人もとてもチャーミング

毒気あり、温かさもあり、愛を感じる素敵な映画。
音楽が、作品をより盛り上げる。

TOHOシネマズ梅田 にて上映

 


こちらの映画も必見。

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Netflixでは「生きのびるために」のタイトルで配信されている
「ブレッドウィナー」

平和活動家のデボラ・エリスがパキスタンのアフガニスタン難民キャンプを訪れ、女性や少女に取材を重ね聞き取った話をもとに書き上げた児童文学が原作。

タリバン政権下のアフガニスタン、過酷な現実を生き抜く少女パヴァーナが主人公

劇中でパヴァーナが語る物語のシークエンスは、切り絵アニメーションがとても素敵で、芸術性が高い。

「ブレンダンとケルズの秘密」なども生み出したアイルランドのアニメスタジオ「カートゥーン・サルーン」の作品と聞いて、うなずけた。

パヴァーナが語るこの劇中劇こそ、作品の希望とも言える。

 

素晴らしい映画、だけど立派で正しい映画だからって、深く入り込めるとは限らない。
私にとってジョジョ・ラビットとこの作品との違いは、理屈ではなく、そこにある。

 

テアトル梅田にて鑑賞

1月第4週・第5週から公開(大阪市内)の映画で気になるのは

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「イントゥ・ザ・スカイ」
実に頼もしい主人公の女性は、架空の人物らしい
(エディ演じる気象学者は実在)
なるほど、それもあってリアリティがないのかー
けど、フェリシティ・ジョーンズのアクション、役への創り込みは素晴らしいし、大きな空に包み込まれる感覚は好き
Amazonプライムでも見られるけど、映画館向きの作品ですね

1月第4週・第5週から大阪市内で公開される映画、その中から気になる作品をピックアップします。

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さよならテレビ 〜嘘つくドキュメンタリー〜

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安倍政権下の今、「権力の客観的な監視役」という役割を、ほとんどのマスコミは放棄している。

現政権をヨイショする新聞もだけど、テレビだけで情報を受け取っている人は、今の時代の怖ろしさに気が付いていないのかもしれない。
とうか、無意識に見たくないものを見ないようにしているのかも。

そんな中、少しだけ期待して見に言った本作


「作為的なノンフィクション」と自ら暴露するフィクションとでも言えばいいんでしょうか?!


見る側の期待に応え出てきましたよ! ジャーナリストとしてまともな志を持ってる記者が。

その澤村記者とは対照的に、報道の使命とか頭にあるのか?と疑いたくなるようなミーハーな派遣社員の渡邊記者。
実際仕事できない人だと思うけど、面白くする為に生贄にされた感がある。

もう一人の主役、福島アナに関してはさして興味がわかない(笑)

このように、スポットを当てられた人物のうち一人は露出の多いアナウンサーで他の二人が契約社員だったのは、いじっても大丈夫な人物を選んでる感じがした。

保身に走りがちな社員からは本音が出てこないから、面白くない事は想像できるけれど。


結局、一番印象に残っているのは澤村記者の「テレビの闇はもっと深いんじゃないですか?」という問い。

それに対し、監督(東海テレビのディレクター)とNHKエデュケーショナルのディレクターは「そんなものは無い」と、ネット上の記事で意気投合している。

本当にそう思ってるのだとしたら井の中の蛙だし、触れたくないのだとしたら、そういう生ぬるい立ち位置が見えて、やはり白けてしまう。

いろいろ考えさせらえるという点では面白いのかもしれないけど、ディレクターの見た目のチャラさも加味され(笑)、最後のネタバラシの方法も含めて、なんだかイジワルな感じがする作品だった。


ますますテレビの報道とは「さよなら」したい、そんな気持ちになることは間違いない。
テレビ、役にたつのは災害時くらいでしょ。

報道以外は、特にEテレとか結構好きな番組あるんだけどなー。


第七藝術劇場にて鑑賞

1月第2週・第3週から公開(大阪市内)の映画で気になるのは

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「長くつ下のピッピ」や「やかまし村の子どもたち」など世界中から愛される児童文学作家の若かりし頃は、自由奔放なだけに苦難に満ちている。
致命的な失敗をしてしまった彼女だけど、その溢れんばかりのエネルギーと才能、意志の強さには羨望心を抱きます。
邦題は「アストリッド」にするべきかと。


1月第2週・第3週から大阪市内で公開される映画、その中から気になる作品をピックアップします。

※1/10(金)〜「パラサイト 半地下の家族」
※1/11(土)〜 「東海テレビドキュメンタリーのお年玉」
上記2つを追記しました。

 

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「裁かるるジャンヌ」〜タイムリーな映画〜

裁かるるジャンヌ 2Kレストア版 カール・Th・ドライヤー DVD

「ゴーモン 珠玉のフランス映画史」公式サイト:http://gaumont-movie-2019.com/


監督:カール・テオドール・ドライエル
脚本:カール・テオドール・ドライエル、ジョゼフ・デルテーユ
撮影:ルドルフ・マテ
1928年製作/80分/フランス
原題:LA PASSION DE JEANNE D'ARC

※ネタバレを含みます


【物 語】
百年戦争においてオルレアンの地を解放に導いたジャンヌ・ダルク。
だが1431年、戦いで捕えられた彼女は、イングランドに引き渡され、異端審問を受けることになる。


年初から、強烈な出逢い
予想以上にすごい映画だった


1928年のカール・テオドア・ドライヤーの作品
サイレントかトーキーかとか、そんな事忘れるほどの迫力でした。
というよりも、サイレントだから、表情で語る映画だからこそ、このインパクトなのかも。

ほぼジャンヌの顔のクローズアップなのに、表情での表現が突出しているせいか、全く見飽きることがない。

サイレント映画終焉の時代に、こういう素晴らしく芸術性の高い作品が生まれた事、しかしそれが当時の観客に受け入れられまなかった(興行的に大失敗だったそう)事は、なんとも惜しまれる気がします。
しかしそれが復元され、大勢の人が観ることができるようになったのは素晴らしいことですね。

 

実際の裁判記録をもとに脚本が書かれたということですが、15世紀の書類ががちゃんと残ってるよう。
公文書をすぐに処分したとか平気で言っちゃう、どこかの国とは大違いですね。


物語はシンプルに見えて、 色々と考えさせられる問題を含んでいます。

 

私は中・高校と6年間キリスト教系の学校で、少し宗教を学びました。
その際「隣人への愛」といった道徳的な側面に理解・共感できる部分はありましたが、「福音」にはどうも馴染めなかったのです。
様々な「奇跡」が、どうしても信じられない。

なので、ドライヤーの「奇跡」を見た時、その結末の神々しさに感動しつつも、どう捉えていいか少々とまどいを感じました。
今作でも「聖ミカエルのお告げを聴いた」というジャンヌのストーリーに、正直乗れない部分はあります。

が、ここで描かれるジャンヌの信仰心、「神の啓示を受け」それに従う情熱や恍惚感、戸惑い、死への恐怖、達観など深層心理には、強く惹きつけられるのです。


また、看守達の下卑た笑い顔がおそろしい。恐怖でした。
高校の授業で、熱心なクリスチャンだった先生が、ジャンヌがドレス(スカート)を着用しなかった理由について話していたことを思い出します。

この、女性に対するセクシャルハラスメントと、時の権力者が司法を牛耳る構図、これは日本においても表面化してきてる問題で、私の中で妙にタイムリーでした。


それにしても、信仰に裏打ちされているとはいえ10代の少女が軍の指揮官として活躍したこと、後に復権裁判が行われ守護聖人の一人となっていることなど、そういう土壌があるフランスが羨ましい。
いやしかし、火刑はないよなー。それだけはイヤ!

 

この作品同様、裁判記録をもとに作られたロベール・ブレッソンの「ジャンヌ・ダルク裁判」も、いつか見て比べてみたい。


念願だった映画をやっと見ることができて、それが傑作だったんだから、今年は幸先いいわー。
感謝です、ハイ。


シネ・リーブル梅田 にて鑑賞

2019年、印象に残った映画のこと

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あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。

さっそくですが、備忘録をかねて昨年に見た映画について記しておきたいと思います。
家族の理解と協力もあり、128本の作品と出逢うことができました。
その中から、順位などはつけず特に印象に残ったものをご紹介しています。
カッコ内は製作年です。


「タレンタイム〜優しい歌」(2009年)
ちりばめられたユーモアと温かさ。
今は亡きヤスミン・アフマド監督の優しい目線を感じ、胸が熱くなる。
異なるモノを排除しようとする傾向が強まる今だからこそ、この映画から受け取るメッセージは心にささる。

 

「存在のない子供たち」(2018年)
年末、日本から逃亡したゴーンさんの件で一気に知名度が上がりそうなレバノンの映画
心揺さぶられたという点では、今年一番だったかもしれない。
この映画で描かれている子供達を決して忘れる事はないと思う、というか忘れられない。
この問題は、弱者が見捨てられ貧困家庭が増加する日本において、決して他人事じゃない。

 

「荒野にて」(2017年)
映像が美しいだけに、この映画の哀しさが増すような気もする。
ダルデンヌ兄弟の映画を見た時のしんどさと、ちょっと似てる。
けど、もっと繊細な空気感がここにはある。
全ての子供に無条件の愛を!

 

「天国でまた会おう」(2017年)
すごく好きな世界観なのに、鑑賞後の新鮮な気持ちを書き留めておけなかった後悔!
残酷だけどどこかキュートで、フランス映画の魅力が満喫できる映画。
小道具・美術なども素敵です。

 

「ボーダー 二つの世界」(2018年)
未知の世界を垣間見るような、このワクワク感が映画鑑賞の醍醐味。
醜さや美しさ、善と悪など、簡単に識別できるものじゃない、その複雑さがいい。

 

「幸福なラザロ」(2018年)
こちらも、不思議な感覚の作品でその神秘性に惹かれる。
投げかけられるメッセージの受け取り方が、人それぞれだろうなと感じさせる曖昧さも好き。
「ペトラは静かに対峙する」もだが、イタリアを舞台とした独自の色彩と映像にも心惹かれる。

 

「田園の守り人たち」(2017年)
黄金に染まる美しい田園風景の中で起こるドラマに、人間の愚かさと逞しさを見る。
物語自体は平凡だけど、人々の生活が慎ましく美しく、見飽きない。

 

「シュヴァルの理想宮 ある郵便配達員の夢」(2018年)
これまた、フランスの田舎の生活を切り取ったような映画。
ただ、この主人公は決して平凡ではない。
一見地味なのに奥深い、こういう小さな作品が大好き。

 

「マイ・ブックショップ」(2017年)
こちらも、地味で淡々とした、でも愛すべき映画。
後追いで読んだ原作も面白かった。
こういう映画を見て、原作読んで、また映画見て、と無限ループが始まる(笑)

 

「COLD WAR あの歌、2つの心」(2018年)
昨年の歌曲賞はこれしかない!というくらい心もっていかれる一曲がある。
モノクロの映像と音楽の力が素晴らしい。


また、大きな資本の映画では

「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウェスト」(1968年)
セルジオ・レオーネの大作西部劇に呑み込まれた!
今、こんな映画はもう作られないかもしれない。

そして、この映画に大いなる影響を受けたタランティーノの
「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」(2019年)
ちょっとクドさはあるけど、カタルシス感じられる映画はやっぱりイイ。
映画愛を感じられるところもね。


他にも今年は「2人のローマ教皇」「ROMA/ローマ」「マリッジ・ストーリー」など、劇場で見たNetflixの映画がどれも良かった。
「アイリッシュマン」は未見なんだけど、近いうちに!


本当に昨年は、いい映画だらけだった。
「ゴールデン・リバー」とか「「グリーンブック」とか「アダムズ・アップル」とか、、、
きりがないので、この辺でやめておきますが。


最後に、ドキュメンタリー編

日本の作品、どれもすごく見応えあり!です
「米軍が最も恐れた男 カメジロー不屈の生涯」
「i-新聞記者ドキュメント-」
「主戦場」←日本じゃなかったですね。日系アメリカ人監督のアメリカ製作でした。
「ある精肉店のはなし」

 

好きなことを追求する美しさよ!
「サッドヒルを掘り返せ」
「カーマイン・ストリート・ギター」

 

世界の今を知ろう
「ヒューマン・フロー 大地漂流」
「ナディアの誓い」

 

F.ワイズマン監督の2本、ちょっとした体力・知力が必要だけど面白い
「ニューヨーク、ジャクソンハイツへようこそ」
「ニューヨーク公共図書館」

 

この逞しく素晴らしい女性達に、感動の嵐!
「RBG 最強の85才」
「おしえて、ドクター・ルース!」


やっぱりドキュメンタリーは好きだなぁと、再確認した一年でもありました。
今年も素晴らしい映画との出会いに期待します!

 

【関連する記事】

 

12月第4週・1月第1週から公開(大阪市内)の映画で気になるのは

「ゴーモン 珠玉のフランス映画史」は、シネ・リーブル梅田にて上映中です。

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先日観た「鱒」(1982年)はものすごいジャポニスム映画で、大屋政子さんもちらり出演してた。

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若かりしイザベル・ユペールの小悪魔っぷりが小気味いい。
対する男たちは薄汚く欲にまみれ、この時代のギラギラした雰囲気が感じられる。
ダンスフロアでかかる音楽も、ダサいことこの上ない(笑)
ちょっとヘンテコな作品だけど、クセが強くて嫌いじゃない。
ジャンヌ・モローやジャン=ピエール・カッセル、ダニエル・オルブリフスキと時代を感じさせる豪華キャスティングで、一見の価値あり。


この特集、まだまだ気になる作品があるけど、一日に一本だけの上映なので、まさに作品との「出逢い」ですね

 

12月第4週・1月第1週から大阪市内で公開される映画、その中から気になる作品をピックアップします。

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「シュヴァルの理想宮」〜なぜかノスタルジィ〜

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公式サイト:https://cheval-movie.com/

監督:ニルス・タベルニエ
脚本:ファニー・デマール、ニルス・タベルニエ、ロラン・ベルトーニ
製作: アレクサンドラ・フェシュネル、フランク・ミルサン
2018年製作/105分/フランス
原題:L'Incroyable histoire du Facteur Cheval

※ネタバレを含みます

【物 語】
19世紀末、フランス南東部の村オートリ―ヴ。日々、村から村へと手紙を配り歩く郵便配達員シュヴァルは、新しい配達先で未亡人フィロメーヌと運命の出会いを果たす。結婚したふたりの間には娘が誕生したが、寡黙で人付き合いの苦手な彼は、その幼い生命とどう接したらいいのか戸惑っていた。
(公式サイトより転記させていただきました)


想いを形にする、その最たるものを見た気がした。


行ったことのない場所、生きたことのない時代なのに、強い郷愁を感じる。
ここで描かれたような時間、消えゆくものをとどめたい気持ちが湧き上がってくる映画。

南フランスの青い空、白い雲、遠くに臨む山々を目にし、鳥の声や水音を耳にしながら、手紙を配り歩く郵便配達員。
そんな仕事に強く憧れる。

いや、しかし歩いた距離は1日32kmだから、めちゃくちゃ大変。
雨や嵐の日もあっただろうし、体調の優れない時もあるし。
わかっているけど、この環境がシュヴァルの感性を刺激した事も間違いないと思う。


対人関係やコミュニケーションを取ることが苦手で、興味のある事に対するこだわりがすごい、いわゆる自閉症スペクトラム障害なのかなと思わせる主人公のシュヴァル。
だからこその徹底した物作りに対する姿勢は、見ていて感動する。

ほとんど話さない彼だが、その表情が感情を雄弁に語る。
最初の妻を亡くした時、子供との別れ、新しい命にとまどう姿など、ジャック・ガンブランの演技が素晴らしい。


彼が自分の情熱を殺さずに生きられたのも、周りの人々の温かい目があったからだと思う。

二番目の妻はもちろん(レティシア・カスタいいねー)、息子や、郵便局の上司(こういう上司に恵まれるって最高!)など。
また、彼に偏見を抱いていた女性の存在も、ある意味印象的だった。

人と違ってるシュヴァルを肯定してくれる人々によって、彼の人生は彼にとって意義あるものになったのだと感じる。


そして、この時代だからこそ人々と「死」の距離が近かった。
色々と辛い出来事も起こるけれど、シュヴァルの人生は美しく、充実していたんじゃないかなぁ。


実際の「郵便配達員シュヴァルの理想宮_の公式サイト:http://www.facteurcheval.com/en/index.html

 

シネ・リーブル梅田 にて鑑賞

 

 

12月第2週・第3週から公開(大阪市内)の映画で気になるのは

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「台湾、街かどの人形劇」

台湾の人間国宝で布袋戯の人形遣い・陳錫煌(チェン・シーホァン)さんを追ったドキュメンタリー。
チェンさんの手の動きも素晴らしいけど、その顔、表情がとてもいいんだなー。台湾の下町っぽい通りとそこに住む老爺達を見てるだけで頬がゆるむ。
同じく人間国宝であった父・李天との確執などにも触れられていたが、そこはなんとなくモヤモヤして消化できなかった。

芸能文化の伝統を継承することの難しさと、衰退していくことの寂しさを感じる映画。
ふと「文楽」を応援したい、久しぶりに国立文楽劇場にも足を運びたいと思った。


12月第2週・第3週から大阪市内で公開される映画、その中から気になる作品をピックアップします。

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「読まれなかった小説」〜多面的な存在〜

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公式サイト:http://www.bitters.co.jp/shousetsu/

監督:ヌリ・ビルゲ・ジェイラン
脚本:ヌリ・ビルゲ・ジェイラン、アキン・アクス、エブル・ジェイラン
製作:ゼイネプ・オズバトゥール・アタカン
2018年/189分//トルコ・フランス・ドイツ・ブルガリア・マケドニア・ボスニア・スウェーデン・カタール合作
原題:Ahlat Agaci(野生の梨の木)

※ネタバレを含みます

 

【物 語】
シナンの夢は作家になること。
大学を卒業し、重い足取りでトロイ遺跡近くの故郷の町チャンへ戻ってきた。
シナンの父イドリスは引退間際の教師。競馬好きなイドリスとは相容れない。
(公式サイトより転記させていただきました)


人間の多面性を見せてくれる、そんな長編小説を読んだような感覚が残る。
脚本家の一人でもあるアキン・アクス(イスラム教の指導者を演じてた人)の自伝的な物語がベースになっているらしい。

そこに視覚的な効果が加わり、見応えあるいい時間が過ごせた。
「雪の轍」でも感じたけど、ちょっと意地悪だなと思うほど人間の愚かな部分を曝け出してくる、その感じがクセになる。
やっぱり私は人間に興味があるんだなぁと自覚する。
その描き方が平たくない事に、一種の安堵感も感じたり。

 

井の中の蛙的存在、無知な若者が主人公、だけど議論しようとする姿勢がいい。
宗教に関してはっきりと意見を言うシーンは、監督が意図したものだとインタビューで見かけたけれど。

パッとしない見た目の主人公とは対照的に父親はハンサムだが、あの情けない笑い方やお金のせびり方には嫌悪感!
このあたりがうまいわ〜。
ギャンブルで家も信用も失っている父親に、失望感しかない主人公だったけれど、、、、

ラストの展開、父と息子の会話は素敵だった。
ここでの会話は、母親が語る若き日の父親像とも合致して胸がすく。

 

ただ、長い!(笑)
やっぱり会話が圧倒的に多いから?!
宗教に関する議論のシーン、それなり面白いけど、もう少し短くてもいいかなと思う。


シネ・リーブル梅田 にて鑑賞