ゆるり鑑賞 Yururi Kansho

映画や海外ドラマ、たまに本の感想を基本ネタバレで

「おしえて!ドクター・ルース」〜“ノーマル”なんてない〜

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公式サイト:https://longride.jp/drruth/

監督・製作ライアン・ホワイト
100分/2019年/アメリカ
原題:ASK DR. RUTH

※ネタバレを含みます

【イントロダクション】
1981年ニューヨーク。日曜深夜、ラジオから流れるトーク番組「セクシャリー・スピーキング」に人々は夢中になった。
誰も教えてくれない性のお悩みをズバリと解決するドクター・ルース。
身長140センチ、強いドイツ訛りの彼女は、そのチャーミングなキャラクターで、たちまちお茶の間の人気者になった。
(公式サイトより転記させていただきました)


これぞ、生きるお手本!


ドキュメンタリーなんだけど、堅苦しさは皆無
ドクター・ルースの人生が、時にアニメーションも用いながらドラマチック(実際ドラマチックだし)に描かれている

 

セラピストとしての彼女は率直に、そしてセクシャリティに関することだけに、その人自身の内面に寄り添いつつ誠実に答えている

お悩み相談の入り口は性であっても、結果的に生きやすくなる方向性のヒントを与えてくれてる感じ

にも関わらず、アメリカでも日本以上に保守的な人々(例えば福音派とか)はたくさんいるわけで

そういう人たちはこの放送を猥褻と捉える
それって逆に性を意識しすぎじゃね?! と思ってしまいますが


10歳にしてナチスから逃れる為スイスに渡り、両親をホロコーストで亡くして孤児になり、その後の人生も波乱万丈
そんな彼女がいかにして、現在のドクター・ルースになったのか

その姿から学ぶところは多すぎるくらいで、なかなか消化できない
それでも「教育が何よりも大切」という言葉には、深く頷いた

笑顔とユーモアを忘れない明るさ、とにかくチャーミング!
周りの人に「ちゃんと食べてる?」と声をかける様子も印象的
不幸を引きずるのではなく、笑って楽しく生きていくその姿勢が大事なんですねぇ


「ノーマル」という言葉が嫌い、政治の話はしないが中絶は肯定する、男女は平等だがフェミニストではない, etc. ,

全ての人に敬意を払う、そんなルースの姿勢は自らの辛い経験から培われたものかもしれない
常にフェアな人だなと感じた


こんなパワフルなルースが二人(もう一人はRBGことルース・ベイダー・ギンズバーグ)も存在する、アメリカの底力みたいなモノを少し感じた
だけど二人ともかなりの高齢、私たちがその精神を引き継いでいく責任があるんだなぁ

RBGの伴侶マーティンも素晴らしかったし、ルースの三度目の伴侶フレッドも映像を通して人柄の素晴らしさが伝わってくる
聡明な女性は男性を選ぶ目も確かという事なのか?と一瞬思ったけど
ルースは二度の経験から学んでの三度目の大成功だったね
フレッドをゲットしたいきさつからも、前向きでポジディヴな彼女らしさを感じて面白い


とにかく映画を見て、ルースの言葉に触れてほしい。


シネ・リーブル梅田 にて鑑賞

「サタンタンゴ」〜ストーリーテリングじゃない〜

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公式サイト:http://www.bitters.co.jp/satantango/

監督・脚本:タル・ベーラ
原作・脚本:クラスナホルカイ・ラースロー
撮影監督:メドヴィジ・ガーボル
音楽:ヴィーグ・ミハーイ
編集・共同監督:フラニツキー・アーグネシュ
438分/1994年/ハンガリー・ドイツ・スイス
原題:Sátántangó

※ネタバレを含みます

【イントロダクション】
経済的に行き詰まり、終末的な様相を纏っている、ハンガリーのある村。
降り続く雨と泥に覆われ、村人同士が疑心暗鬼になり、活気のないこの村に死んだはずの男イリミアーシュが帰ってくる。
彼の帰還に惑わされる村人たち。
イリミアーシュは果たして救世主なのか?それとも?
(公式サイトより転記させていただきました)


「ニーチェの馬」(2011年)の原点を見た気がした。

すごいエネルギー執念を感じる。よくこんなモノが撮れたなぁと。
この長さに必然性を感じるか、もっとギュッと凝縮したモノが好きか、好みが分かれるところだと思う。


思い返してみると、昔劇場で見たベルトルッチの「1900年」(1976年)は、長かったとはいえ316分だった。
しかも、歴史絵巻物的というかストーリーに起伏があった。

今回は438分という時間に加え、長回しのタルベーラ作品。

という事で、二度ほど意識が飛びました。
全12章で構成されていて、意外にもメリハリがあり
中盤以降は、全く眠気を感じずに没入できたけど。

 
オープニング
ぬかるんだ土、吹きすさぶ風、不毛さを感じさせる風景の描写が延々と続く。
どこか現実味に欠けるようなタル・ベーラの世界に、いつの間にか入り込んでいる不思議な感覚。


タル・ベーラいわく「俳優が逃げることができずに状況の囚人となる」な長回しは、観客に緊張感を与えるという効果も狙っているよう。

その緊張感にプラスされるのがモヤモヤとした不安感
ここでは、イリミアーシュがいつ現れるのかという不安と、その時が先延ばしにされているかのような構成から不吉さも感じる。

そんな重苦しい空気の中、踊り狂う村人達!
このシーンはユーモラス(実際に俳優たちは酔っ払っていたらしい)
酒場に登場する革ジャンヒゲおやじが、絵に描いたような困ったちゃんで笑ってしまった。


悪い意味でも印象に残ったのは、少女と猫のエピソード
自分より弱い存在に対し暴力的になる少女、そのシーンには目を背けたくなる。


しかし、彼女がたどり着く古い教会、その絵からは詩的な美しさが漂い、
これは夢なのか?と思わせるような、幻想的な雰囲気。
この少女が成長し、やがて「ニーチェの馬」の娘役を演じていたらしい。


映像以上に気になったのは、様々な音
風の音、雨の音はもちろん、泣き叫ぶような牛の声、部屋の中を飛ぶ虫の羽音、頭の中で鳴り響く鐘の音など、これによって悪夢感がますます高まっていく。

そうそう、人間の張り上げた声って何より耳障りなんだなと思った。
酔っ払いが繰り返す言葉や、狂人の「トルコ人がやってくるぞ!」の叫び声など、なかなか執拗で不快だった(笑)


少し違和感があったのは、映像から感じ取れるモノは古びていてリアリティがないのに、ラストで明らかになる設定が社会主義国だった当時のハンガリーを反映してるようだったこと。

それと、荘園の廃墟での顔のアップ、この長回しはもうかんべんしてくれ、と思った。
なんだろう、急にここで気持ちが冷めてしまったというか。
他力本願な村人の顔は堕落した者のソレでだったから、目を背けたくなるのかもしれない。

あともう一つ
ナレーションで長々と経緯を説明するの、個人的にあんまり好きじゃない。
映画はやっぱり絵で語ってほしい。


体験としては非常に面白かったけど、度々見たいかと問われるとそうとは言えない。
何年か後に、また劇場で見るのも良いかなと思う。


英文学賞ブッカー国際賞を受賞したクラスナホルカイ・ラースローの同名小説が原作


テアトル梅田 にて鑑賞

 

 

 

9月第1週・第2週から公開(大阪市内)の映画で気になるのは

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トールキン好きとしては興味津々、英国男子の青春モノが好きな人にもオススメ。
第一次世界大戦の悲惨さを、避けては語れない時代。
ディテールはフィクションであっても、友人達とのワクワクした時間や、悲惨なソンムの戦いも、トールキンの発想の源になっていると感じた。

 

今日を含めた今週末と、来週末から大阪市内で上映される映画から
気になるモノをピックアップします。

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「ガーンジー島の読書会の秘密」〜ラブストーリーの王道〜

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公式サイト:http://dokushokai-movie.com/

監督:マイク・ニューウェル
脚本:ドン・ルース、ケヴィン・フッド、トーマス・ベズーチャ
原作:メアリー・アン・シェイファー、アニー・バロウズ
衣装デザイン:シャーロット・ウォルター
124分/2018年/フランス、イギリス
原題:THE GUERNSEY LITERARY AND POTATO PEEL PIE SOCIETY

※ネタバレを含みます

【イントロダクション】
1946年、ロンドンで暮らす作家のジュリエット(リリー・ジェームズ)は一冊の本をきっかけに、ガーンジー島の読書会のメンバーと手紙を交わすようになる。島がナチスの占領下にあった大戦中、読書会や本が人と人の心をつないだことに感銘を受けたジュリエットは、取材のため島を訪れる。

 

ミステリーの要素は少なめ、コメディで、戦争を省みる映画でもあり、やっぱりラブストーリー

1940年代のイギリス、本が題材の映画という点で「マイ・ブックショップ」と共通ですが、今作はもっと鑑賞後の幸福感があります。

自分自身に目覚めた女性が、選ばれた相手ではなく、自分が愛する相手を選ぶというフェミニズム的展開も◎

とはいえもどかしいほど、あからさまな愛情表現はしない。
あくまでも奥ゆかしく、欲望ダダ漏れじゃない古風な感じがいいのです。
アメリカ人との対比が極端だけど(笑)

 

本について語り合える、そんな関係性は素敵。
以前の本の持ち主と知り合うという、私には妄想&理想の世界が広がっていく。
ここでは、イエーツ、メアリー・シェリー、ヴァージニア・ウルフなどの名前が挙げられてました。
読書の楽しみ、またそれについて語り合う時間は宝物なのです。

 

ガーンジー島の景観が素晴らしく、私のように初めてこの島に注目する人も多いかもしれません。
ナチスから解放されるまで、この島をはじめとしたチャンネル諸島の人々には一方ならぬ苦労があったようですね。

戦争の傷跡に苦しむ人達が懸命に生きる姿は、歴史を繰り返してはいけないという決意を、見るものに思い出させます。
例の軽々しく「戦争」を口にして党を渡り歩いている日本の議員、腹立たしいわ…

話が脱線してしまいました。


読書会のメンバーも味ある人ばかりで、作品が楽しく心温まるものになっています。
特に、キャサリン・パーキンソン演じるアイソラが可愛い。
「ザ・コミットメンツ」(1991)のブロナー・ギャラガーが、いけすかない宿の女将役で、相変わらず鳩が豆鉄砲を食ったような表情(笑)
マシュー・グードも、脇役の時はなんか好感度高くて好きだわ

当時のファッションも、それを着こなすリリー・ジェームズも素敵。
SNSとかじゃなく手紙でのやりとりって、やっぱり格別のドキドキ感がある事を少し思い出しました。


大阪ステーションシティシネマ にて鑑賞

「ロケットマン」〜ファンタジー色がチャーミングなミュージカル〜

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公式サイト:https://rocketman.jp/

監督:デクスター・フレッチャー
脚本:リー・ホール
製作:マシュー・ボーン、デビッド・ファーニッシュ、アダム・ボーリング、デビッド・リード
製作総指揮:エルトン・ジョン、クローディア・ボーン、ブライアン・オリバー、スティーブ・ハミルトン・ショウ、マイケル・グレイシー
撮影:ジョージ・リッチモンド
美術:マーカス・ローランド
衣装:ジュリアン・デイ
121分/2019年/イギリス・アメリカ
原題:ROCKETMAN

※ネタバレを含みます

【イントロダクション】
グラミー賞を5度受賞、『ライオン・キング』の主題歌「愛を感じて」でアカデミー賞歌曲賞を受賞。代表曲の「ユア・ソング(僕の歌は君の歌)」は世代を超えて歌い継がれている。輝かしい功績で知られる伝説的ミュージシャン、エルトン・ジョンだが、その成功の裏には悲しくも壮絶なドラマがあった。
(公式サイトより転記させていただきました)


子供の頃の孤独な自分をハグしてあげる、そんな演出と美しいメロディに胸がギュッと締め付けられる。

エルトン・ジョンにさほど興味がない私でも、すごく楽しめました。
いい意味で垢抜けてなくて、おシャレなミュージカル(「ラ・ラ・ランド」みたいな)とは違う味わいがあります。


なんといっても、エルトンとバーニーの友情に胸熱!
出会って意気投合し、音楽談義に花を咲かせ時間を忘れて夢中になる様子
この時の二人の興奮が伝わってきて、ワクワクします。
バーニー役がジェイミー・ベルというのも、好ましいわ〜

けど、こんな近くに無二の親友がいても、
友人<恋人 の図式になってしまうのは、もはやお約束?
お互いに尊敬し合う友情とは違い、恋愛感情なんて所詮一時的なモノなのに、ウブな坊やは舞い上がっちゃっうのよねん。
この辺は「ボヘミアン・ラプソディ」と重ねて見てしまうなぁ。

幼少期のトラウマ、名声を得てからのプレッシャーや孤独、そこからアルコールやドラッグ、セックス依存症に陥る
と、この時代のスターを絵に描いたような話だけど。。。

エルトン・ジョンは生きててしかも現役だから、安心して見られる。

一時代ドラッグなどにハマっても、そこから復活した人と早死にしてしまう人の境目はどこなのだろう?と、しみじみ考えてしまう。
ミックやキース、スティーブン・タイラーなんか、いまだにピンピンしてるもんねぇ。

親子関係の描写など、見ていて辛いエピソードも多い。
けれど、様々な出来事があって現在のエルトン・ジョンがいるのだなーと、例のごとくエンドロールの映像を見ながらしみじみ思う、この瞬間が好きです。
「人生山あり谷あり、けれど自分自身で切り開いていくもの」と、生き証人が語ってくれているように、勝手に感じてます。

聞き覚えのある曲も多かったけど、知らない曲もメロディが素晴らしい。
タロン・エジャトンの歌声はエルトン本人よりも男っぽくて色気があり、むしろこちらの方が好みなので満足です。

そうやって、サントラとオリジナルを聴き比べるのも面白い。

ここしばらくは、通勤時間の楽しみになりそうです。
ミュージカル映画は、耳で長く鑑賞後の余韻を感じられるのがいいですね。

 

ロケットマン(オリジナル・サウンドトラック)

ロケットマン(オリジナル・サウンドトラック)

  • アーティスト: サントラ,ジェイソン・ペニーコーク,アレクシア・カディム,デニー・ランデル,サンディ・リンザー,エルトン・ジョン,バーニー・トーピン
  • 出版社/メーカー: ユニバーサル ミュージック
  • 発売日: 2019/08/07
  • メディア: CD
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TOHOシネマズ梅田 にて鑑賞

8月第4週・第5週から公開(大阪市内)の映画で気になるのは

今日から「ロケットマン」に「ドッグマン」、
明日からミッシェル・オスロ監督のアニメーションと
見逃せない新作ばかりです

また、来週末からは話題のタランティーノの新作が公開!

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他にも色々、気になる映画をピックアップします

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「トム・オブ・フィンランド」〜今いる場所だけが世界じゃない〜

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公式サイト:http://www.magichour.co.jp/tomoffinland/

監督:ドメ・カルコスキ
脚本:アレクシ・バルディ
撮影:ラッセ・フランク
116分/2017年/フィンランド・スウェーデン・デンマーク・ドイツ・アメリカ
原題:Tom of Finland

※ネタバレを含みます

【ストーリー】
同性愛が厳しく罰せられた第二次世界大戦後のフィンランド。帰還兵のトウコ・ラークソネンは、昼間は広告会社で働き、夜は鍵のかかかった自室で己の欲望をドローイングとして表現していた。
(公式サイトより転記させていただきました)


情熱溢れる人たちが登場する、静かな映画
フィンランドからLAへ、その対比が面白い


トウコは戦争で受けた心の傷をひきずりながら、自分が殺したロシア兵を一人のキャラクターとして昇華させていきます

が、闇にまぎれて相手を探す夜の森は寒々しく、抑圧され本来の自分を隠した生活からはウツウツとした暗さが。

反面フィンランドの夏は柔らかな日差しが美しく、このパートは少しもどかしさを感じるようなリズムで淡々と描かれます


一方、LAの映像はスコーンと抜けた青空とプールの水しぶきが眩しい!
「開放感」「自由」という文字が頭に浮かびます

彼の絵がいかに多くの人に影響を与えたか、そんな空気感が伝わってきます
70年代のゲイカルチャーは、こうやって生まれていったんだなぁ

内から湧き出てくるものを描いた絵の数々は、最初はあくまでも個人的なモノだったんでしょうね。
それが遠く離れたアメリカで大勢の人の共感を得て支持される、その時の驚きと感動はいかばかりか!

これを見て、当時不思議に思ってたヴィレッジ・ピープルのコスプレも納得
「マッチョ、マッチョ、マーン♪」というゲイ色を前面に出した曲には、少なからずカルチャーショックを受けたけれど

 

そんなアメリカでも、80年代HIVの大流行と共にゲイに対するバッシングがひどくなっていきます

長い間抑圧されていた同性愛者たちにとって、不特定多数と活発に性交渉を持つ場ができた事は、流行の要因の一つと言えるかもしれません
それもこれも今だから言える事であって、当時は治療できないこのウイルスは未知のモノだったのです
ゲイであってもなくても、欲望に流されず安全な性交渉を!という事につきますね


シネ・リーブル梅田 にて鑑賞

「存在のない子供たち」〜記憶に刻まれた子供たち〜

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公式サイト:http://sonzai-movie.jp/

監督・脚本: ナディーン・ラバキー
125分/2018年/フランス、レバノン
原題:Capharnaüm

※ネタバレを含みます

【ストーリー】
わずか12歳で、裁判を起こしたゼイン。訴えた相手は、自分の両親だ。裁判長から、「何の罪で?」と聞かれたゼインは、まっすぐ前を見つめて「僕を産んだ罪」と答えた。
(公式サイトより転記させていただきました)


久しぶりに、すごい作品を見た

ドキュメンタリーのようなリアルさを感じつつ、カリスマ性のある主役が演じる物語に強く引き込まれていく、そんな心動かされる映画

 

法的に存在していない子供たち
愛されず、教育を受けられない子供たち
第2級市民や不法就労者たち
演じるのは、登場人物と似たような境遇にいる人達ばかり

中でも自身がシリア難民でもある主役ゼインくん、そのスター性に惹きつけられる


映画は、ゼインが自分の両親を訴える裁判所のシーンから遡っていく

親から生活の糧として扱われてきたゼインの、唯一の拠り所でもあった妹サハル
その妹を必死に守ろうとする彼の努力もむなしく、彼女は強制的に結婚させられてしまう

親に見切りをつけた彼は家を飛び出し、助けを求めたのが不法滞在エチオピア人女性ラヒル
極貧とはいえ、彼女の赤ん坊ヨナスは愛情をもって育てられている
ここでゼインが守るべき存在は、自然とヨナスとなっていく
(このヨナスがまた、最高に可愛いです!)

しかし、ラヒルは不法就労で警察に拘束されてしまう
ゼインはヨナスの世話をしながら、毎日をなんとかしのいでいく
が。。。。

親からの愛情を知らないゼインが、自分より弱いものを守ろうとするその逞しい姿に感動し、心の中で必死に応援してしまう

どんなに厳しく辛いギリギリの状況でも、ゼインは常に冷静に行動しようとする
そんな彼が裁判で「自分のような子供をこれ以上増やさないで欲しい」と訴えた時や、面会で母に見せた怒りと悲しみの表情が胸に突き刺さる


監督が3年間レバノン国内でリサーチした事が元に作られた作品だけに、現実の重みを考えると暗い気持ちになる

私が知らなかったのは、レバノンでは完全に国民としては認められていない「第二級身分」というモノが存在するという事
ゼインの両親だけが一方的に「悪」なのではなく、社会制度自体が負の連鎖を引き起こしているという事
それでも、そこに「愛情」が存在していれば少しは救いがあるのだが

どこまでいっても、努力してもどうにもならない、すごい閉塞感

ただ、ゼインくんの逞しや賢さに感心し、その優しさに涙し、祈り、時に共感して夢中になっていたせいか、救いようのないしんどさではない
強く生きる彼に教えられ、勇気付けられた、そんな時間だった
映画としても、ちゃんと落とし所も心得ている

出演者達がこの映画をきっかけに、人生が好転したのではないかと考えると少し明るい気持ちにもなる

もちろん名もなき忘れられている人々が、今も苦しんでいる現実を忘れてはいけないし、欧州へ渡りたいと話していたストレートチルドレンの女の子に思いをはせるだけでもいいと思う

ここ日本でも、家庭内暴力など様々な事情で戸籍がない人々が存在するし、色々と問題が山積みなんですけどねぇ


この映画を見に行った日、シネ・リーブルが大入りの様子で嬉しくなりました。
メディアにでも取り上げられたんでしょうか? 広まるといいな

ぜひ、10代とか若い人達にも見て欲しい
この間、文部科学省選定の「風をつかまえた少年」を夏休み映画でオススメしたばかりだけど、本作はもう少し年長の子供達に見て欲しい作品です


シネ・リーブル梅田 にて鑑賞

8月第2週・第3週から公開(大阪市内)の映画で気になるのは

トレーラーを見ただけでワクワクが止まらない!

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大好きなミッシェル・オスロ監督でベル・エポック期のパリが舞台って、めちゃくちゃ期待してしまう。
「ディリリとパリの時間旅行」は8/24(土) 〜 からの上映で、もうちょっと先です、待ち遠しい!

 

さて、今週末からと来週末から大阪市内で上映される映画の中から気になる作品をピックアップしました。

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